黒島の郷愁風景

石川県門前町<船主の邸宅群> 地図 <輪島市>
 町並度 7 非俗化度 6 −外海に直面しながら多くの廻船業者を育んだ集落−







 


黒島の町並 板壁と端正な格子が美しく保たれていた


 黒島地区は能登半島の北西部、日本海に面している。やや湾入はしているが目立つ入江はなく、外海に直に面している集落で冬期の厳しい環境がうかがえる。
 そのような土地であるのに、ここには多くの豪勢な旧家が残り、重要伝統的建造物群保存地区に指定されている。その多くはもと廻船問屋であった邸宅で、その典型例が県の有形文化財となっている角海家だろう。集落のメインの街路より日本海岸に至る非常に深い奥行を持ち、その敷地内には4棟の蔵を持つ。先年の能登半島地震では震源に近いため大きな被害を受けたが、2011年に復原工事が完成し公開される。
 廻船業は室町期後半より始まったとされ、江戸時代には幕府領となり隆盛期を迎えた。ただし、先に書いたように多くの船舶が停泊できる内湾を持たないために港としては発達することができなかった。廻船の荷の積卸しは沖に船を停め、艀(はしけ)で運搬したという。集落内での商業活動も余り盛んではなく、北前船などの廻船の船主や乗組員などの居住するところであった。これは加賀地方の橋立集落などに類似例を求めることが出来る。
 明治中期以降は廻船業が衰退していったが、漁業その他に転向し、村の人口が大きく減少することはなかった。
 確かに港として発達するには厳しい地形で、荒天時には風波が否応なしに叩きつけるだろうことは容易に想像できる。家々が軒並、下見板貼りという木質の高い構造となっているのもそれを証明する。角海家の海岸に向う通りに面した板壁も、土蔵を被覆したものである。一方この板貼りの工法は、明治以降大工を継承する旧家により守られているといわれ、それが現在の町並風景に少なからず寄与している。
 集落の背後の小高いところに立つと、渋い黒色の瓦が密集する見事な風景が展開していた。
 




角海家住宅 非常に深い奥行を持つ邸宅だ



訪問日:2013.05.03 TOP 町並INDEX