牟岐の郷愁風景

徳島県牟岐町【漁村】 地図
 町並度 6 非俗化度 10 −漁家と商家の双方が見られる海辺の町−
 



 


牟岐浦地区の町並

 牟岐町は徳島県の南東部、太平洋に面する町である。黒潮が通過するため冬でも温暖なこの地は、沖に浮ぶ大島や出羽島などに暖地性の貴重な植物も繁茂しており、南国の香の漂うところである。
 雨の多い四国東部の山岳地帯から流れ下る牟岐川下流部にわずかな平地が開け、漁村・港町として古い歴史を持つ町並が展開している。河口付近が漁業を生業としてきた牟岐浦、続いて商業の町であった中村に大別され、現在は中村が町の中心となり牟岐駅も置かれる。
 町並の姿も牟岐浦では簡素な平入りの家屋が狭い間口で連続する姿が見られ、漁師町の趣だ。阿波南部の海岸沿いの町に共通して見られる床几は余り見られなかったが、漁家らしい古びた家並が生活路として利用されるメインの街路に面しても連続性を保って残っており、それらが保存の手を得ている風もなく自然体であるのは貴重である。
 牟岐川を渡り行政機関や学校のある地区を過ぎると中村地区のかつての中心に出る。ここでは打って変わって商家の建物が幾つか残っていて、この地域一帯としては珍しい町並の風景だった。塀に囲まれた広い敷地を持ち、街路に面して厳かな主屋正面を見せる町家。外観からして明治以降の建築と思われる。付近では現代に入り遠洋漁業が盛んになり、それにより巨額の富を得たお宅なのか。それとも藩政期から重要な町の役を務めていた旧家だったのか。歩いて外観を見ただけでは解らない。
 歴史を調べると中世には海を見下ろす丘の上に城が構えられており、海部氏の一族がこの一帯を統治していたとされる。平地に乏しく入江が連続する付近の浦々は要塞を構えるにふさわしい地形であり、阿波水軍の発達を見たのだろう。
 また近海漁業を主としていた当地の漁民は、藩から加子浦に指定され参勤交代や諸用などの折には公務として米が支給され、藩営の水揚場が置かれるなど重要な漁港として位置づけられ、町場が栄えていたのだろう。
 古い町並として残っているのは国道が湾奥の内陸を短絡している物理的要因が大きいと思われるが、それとともにこの町の歴史の深さと住民の愛郷心が根底にあるように感じられた。
 





中村地区 間口の広い旧家の佇まいが見られる

 

訪問日:2007.08.14 TOP 町並INDEX