室尾の郷愁風景

広島県倉橋町<漁村> 地図 <呉市>
 町並度 5 非俗化度 10 −路地風景がこれほど広域に展開する町は今や貴重−

     



倉橋町室尾は、蛸のような形をした倉橋島の裾の広がった南岸、町役場のある本浦から小さな岬を2つ交わして辿りつく。
室尾の町並




 細い路地に面して建つ酒蔵 集落内はほとんどこのような車の入れない路地で構成されている




 
 室尾には三味線を弾く人が今でも非常に多いのだそうだ。入組んだ海岸線の続く倉橋島南岸は、波静かな天然の良港が連なり、港町が発達した。室尾浦と呼ばれたこの地はその一つで、漁業のみならず商業も取引され、外部との交流も多かったという。文化人も多数訪問して書を残している。三味線は彼らから伝えられ、広まったものなのだろう。
 今この集落内に入ると、車の姿が全くないのに気付く。それは当然のことで、バスなどが通る海岸沿いの道路と、その一つ山側のかつてのメインの通り以外は、人がすれ違えるだけの幅しかなく、文字通りの小路である。そしてそれらの路地には、港町らしい板塀で囲われた家、漆喰塗り込めの土蔵など、古い町並を構成する様々な建築要素が至るところに残っている。この狭い路地は改築するにも資材の搬入などが困難で、だから古い姿がそのまま残っているといえる。銭湯や民宿、古い薬局など、生活の色が「にかわ」のように染み付いた懐かしさを誘う町並である。
 路地の奥に、不似合いなほど大柄な土蔵造りの建物がある。「三谷春」を醸造する林酒造の酒蔵である。造り酒屋のある路地風景というのは、一際味わい深いものがある。周辺には袖壁を従えた旧家や、板塀を巡らした一見武家屋敷風の建物もあり、単なる漁師町ではないことを物語っていた。秋には伝統的な祭り「室尾だんじり祭り」も勇壮に行われる。
 このような昔ながらの路地風景を広く持つ集落は貴重である。但し二度目に訪ねた時、「三谷春」の酒蔵周辺が整備され、集客施設として整えられつつあるのを眼にした。観光地として荒らされることは無いだろうが、原風景的な家並はいつまでもそのままであってほしいと思わずにはいられない。

 ★:2003年5月撮影,それ以外は2008年6月撮影


訪問日:2003.05.18
(2008.06.01再取材)
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