三本松の郷愁風景

奈良県室生村街道集落 地図 <宇陀市>
 町並度 6 非俗化度 8  −旧道沿いに見事な街道風景が残る−



 室生の名を聞けば真言宗の寺である室生寺を想起される方が多いだろう。
 一方で交通面に目を向けると、近鉄大阪線が東西に横断し、名古屋や伊勢・志摩方面への特急を中心に列車が頻繁に行交う大動脈となっている、また大阪や奈良盆地と三重県中部を結ぶ国道165号線も並行している。
旧長瀬村の町並




旧長瀬村の町並


 この付近は宇陀川の谷間にあたり、古くから畿内と伊勢を結ぶ主要街道が通過していた。ここを通る初瀬街道はここから名張を経て、参宮街道の六軒宿に達していたもので、江戸期にここを通る旅人の目的はほとんどが伊勢参りであった。名の通り道中には初瀬(長谷)寺もあり参拝客で賑った。
 ここで紹介する三本松地区は初瀬街道沿いに発達した街道集落であるが、宿駅が設けられていたともいわれ、その当時の旅籠に由来するような伝統的な建物も随所に散見されるところである。
 古くは長瀬村・中村・髭無村・上村・古大野村の五村に分かれていたが、明治初期に合併し三本松村となった。付近にある三株の老松に因んで命名されたのだそうである。古い町並は東側の宇陀川に沿う旧長瀬村地区と、西側の丘陵地帯にある旧中村地区の二地域で主に見られる。
 国道165号線の道の駅宇陀路室生より名張方面へ約500m進んだ位置より右に旧道に入ると、旧長瀬村の古い町並が展開している。平入り、中2階、格子と虫籠窓という典型的な町家建築が軒を接して連なる姿からは、周囲の農村地帯とは画然とした違いが感じられ、何百年の昔から土地に根を降ろしているような古い集落であろうことが例え知識が無くとも厳然と伝わってくる。旧街道らしい道幅である所も趣深い。
 一方で道の駅付近より西側は、旧初瀬街道は山側に分岐してなおもその道筋を明確に残しており、起伏の大きい山道となる。とは言え直ちに山林に分け入ることもなく、やがて旧中村(字琴引)の集落に差し掛かる。ここは絵になる街道風景が連なっていた。街道は適度に曲線を描き、また坂道となりながら、その両側には漆喰に二階部を塗り回された間口の広い商家風の旧家をはじめ、旧旅籠を思わせる伝統的な家々が連続していた。
 緩やかな坂の上から左に向って曲線を描く街道に沿い、町家建築の連なる風景は街道集落の真骨頂を見る思いであった。




旧中村の町並




旧中村の町並

訪問日:2008.07.20 TOP 町並INDEX