長井の郷愁風景

山形県長井市<商業町・河港町> 地図 
町並度 5 非俗化度 7 −最上川水運の要衝として商業が発達−





十日市一丁目の町並
 

 
長井市は県の南部、長井盆地と呼ばれる小盆地に開ける最上川沿いの町である。
 山形新幹線や幹線国道からは外れた位置にある事もあり、静かな町の風景が展開している。
 市街地の東部を北流する最上川沿いには舟場という地名も見られ、このことからも川の恩恵を受けて発達しただろうことが伺える。
 市街地はかつて宮村・小出村という二村がその原形で、いずれも河港で発展した。この地区の最上川は既に川幅が広く川舟が上がって来るのに問題ないように見えるが、北側の白鷹町付近に岩礁が多いことが障壁となっていた。17世紀後半、米沢藩の御用商人であった京都の豪商が私費を投じて航路を開いたとされ、以後大型の船も酒田の港へ直通できるようになったことで大きな発展を見た。宮船着場と呼ばれたこの河岸付近には、藩の米蔵が置かれ米沢藩の城米などが京坂や江戸に向けて積出された。京坂からは帰り荷として衣類や陶器などの生活物資が積まれ、酒田からは塩や海産物など、それぞれ不足しがちな商品が取引され潤った。
 宮村・小出村ともに盛んに市が行われ、長井盆地の経済・流通の中心として確固たる地位を築いた。絹織物や綿織物を商う豪商もあらわれた。
 市街地の北で最上川に支流の野川が合流している。この野川を少し入った位置に宮船着場があり、合流点から最上川の少し上流に小出の船着場があった。二つの港に挟まれた地区に町場が形成され、それが現在の市街地に継承されている。
 面的に伝統的な建物が残りやや古い町並としての全容がつかみにくいが、市役所より北の十日町・横町付近、南側のあら町付近に比較的多くの伝統的な外観の建物が残っている。前者は宮、後者は小出の船着場にそれぞれ近く、あるいはその名残なのだろうか。
 造り酒屋や醤油醸造業などを営んでいる姿が古い構えのままあちこちに見られる。町で一番の豪商とよばれた屋号岩城屋がその姿を残しているのも貴重だ。連続した古い町並景観は少ないものの、質及び全体としての古い建物の数を考えると決して小規模なものではない。洋風の建物のまま現役の医院の姿もあった。
 町並景観として特徴的なのが茅葺の屋根を持つものが複数見られることだ。農村部ならともかく、市街地でこれほど多く見られる町は今時珍しいといえよう。

 




栄町の町並(旧豪商岩城屋) 横町の町並




あら町(粡町)の町並



あら町の町並
 町を歩いたところ、表立っては町並や伝統的建物の保存活動を展開しているようには見えなかった。ただネットで検索するとその歴史を認識されているようである。観光資源としての利用は控えてもらいたいが、建物を通して歴史認識の価値はある。
 
 
訪問日:2015.09.21 TOP 町並INDEX