荻町の郷愁風景

岐阜県白川村<農村集落> 地図
 
町並度 9 非俗化度 1  −世界遺産に指定された我国を代表する茅葺集落−




 一般的に白川郷と呼ばれているこの合掌造の茅葺集落。岐阜県とは言いながら富山側から入るほうが近く、水系も日本海側であるこの地の冬は雪深く、2メートル以上となることも珍しくない。しかしこの屋根は、傾斜が急なため厚く積雪することもなく、内部からは囲炉裏の煙で燻され虫は寄り付かず、合理的な民家である。萱葺き屋根は数十年に一度程度葺きかえられ、その日は村人総出の作業となるという。
城山展望台から見る荻町集落の全景









 

 切妻造り平入りの形式を取り、簡素な外観だが各家の規模は大きく、明治期まで大家族制が続いていたことの名残とも言われる。これは平地・耕地の極めて限られた土地のこと、子孫に土地や畠を譲渡することが出来ず、代々が同じ屋根の下に暮らしていたとのことで、陸路も険峻なこともあり独特の風土が遅くまで残っていたのである。三階建てまたは一部に四階建てのものも見られるなど多層建ての民家だが、居住空間は1階のみで、上層は養蚕や物置などの産業空間として専ら利用されていた。二階部以上の妻部に穿たれた窓は通風のためで、機能本位ではあるがそれが実に趣深いアクセントとして訪問者には感じられる。
 富山県側の五箇山地区とともに、独特の合掌造りの民家が集中していることから重要伝統的建造物群保存地区に指定され、さらに世界遺産にも登録された荻町の町並は、日本の古い町並によく見られる瓦葺きの旧家や、塀と長屋門の武家屋敷とも大きく一線を画す町並景観として、我が国でも極めて特異である。一部に平家の落人伝説もあるこの地は、産業としては養蚕と硝煙(火縄銃の火薬)くらいで、あとは自給自足の生活を代々続けてきたのである。
 保存の手は厳重であるが、今や観光地として団体を含め多くの訪問客がある。シーズン中の休日などは町の中心を貫く道路は観光客でごった返し、渋滞も発生する。現在でも多くの民家で生活が営まれているのだが、観光客の闊歩する中では、それらはテーマパークのような様相を呈してくるのは避けられないものだ。現在東海北陸自動車道が整備中で、北陸側からは開通していて金沢や富山からわずか1時間で到着することができる。やがて岐阜側からも直結されると、多数のマイカーの観光客が雪崩れ込んで更なる観光地化が進むことは容易に想像できる。近隣に駐車場を整備し、せめて休日はこの道路を通行止にしていただきたい。
 町の北側に荻町集落全体を見渡せる展望台がある。写真などでもよく紹介されるが実際見ると息を飲むような見事な集落風景だ。春夏秋冬いつ来ても、季節を濃厚に感じさせる魅力に満ちている。何度でも訪ねる価値のある集落である。





※雪景色の画像は1999年1月撮影、その他は2005年10月撮影の画像です。


訪問日:1999.01.06
(2005.10.10再取材)
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