大川内山の郷愁風景

佐賀県伊万里市<産業町> 地図
町並度 5 非俗化度 2 −最高級品「鍋島」を産出した秘窯の里−






大川内山の町並  大川内山の町並




大川内山の町並 大川内山の町並



 伊万里焼は日本を代表する焼物の一つである。玄界灘に接したこの港からは、古くから有田など周辺の焼物も盛んに積出され、その港として伊万里の名は全国のみならず世界に知れ渡っている。港付近には陶器商人の豪邸が連なっていたといい、大変繁栄した港町だったそうである。今は残念ながら家並にその面影を多く求めることはできない。
 一方市街地の南東側の山間、細い谷に沿い、秘窯の里と形容される大川内山がある。江戸初期から幕末に至るまで、佐賀藩の御用窯があったところで、その名も「鍋島」というブランド名で全国に知られ、産出される焼物は朝廷や将軍、諸大名に献上する最高級品であった。
 町の入口には番所が置かれ、焼物やそれに使う土の出入りを厳しく監視していたという。焼物は有田の皿山代官や陶器方役人などの厳正な監督の下に作成され、商人が窯元に近づくことは厳禁されていたといわれる。
 この大川内山には独特の町並が展開していた。伝統的な建物であるか否かを問わず、ほぼ全てが窯元あるいは陶器店で占められており、その顔も控えめで秘窯の里と言われるにふさわしい佇まいを保っていた。集落の背後には切り立った崖を持つ急峻な山々が迫っていて、一種異様な雰囲気である。木造の町家スタイルの表情をした建物でも内部には所狭しと焼物を陳列され、散策する者に自由に公開されている。洋風建築風のものが所々に見られるのも、明治時代以後にも焼物を求めて多くの客がここを訪れ、繁栄していたことを示しているようであった。
 訪ねた時は盛夏の頃で、焼物で作った風鈴が各家の軒先に吊され、それが清い音色を響かせており涼を醸していた。しかし町の入口には大型観光バスも受入れる駐車場が整備され、観光客が次々と雪崩れ込んでくる。訪ねる客はもちろん町並よりも焼物が目的なのだろう。
 10年後に訪ねたら伝統的な窯元の家並が根こそぎ更新されていたなどということのないように願いたい。





 大川内山の町並

訪問日:2005.07.17 TOP 町並INDEX