興津の郷愁風景

高知県窪川町<農村集落・漁村> 地図 <四万十町>
 町並度 5 非俗化度 9 -竹垣に囲まれた海岸の農村−
 




 土用竹の生垣が張り巡らされる興津の郷地区。ブロック塀などの無機質なものが増える中、この竹垣には温かさを感じます。




 中には手入れが行き届かないのか故意か、人の丈をはるかに超える高さまで「成長」した竹垣もあります。  これは判りにくいですが高く揃えられた竹垣の中央に家の門があります。




竹垣と庭木がまたバランスよく取り合っています。  竹垣のない地区ではこのような平凡な田舎町の顔をしていました。

 
 高知県の南西部に位置する窪川町は、一般には四万十川上流に開ける高原地帯であり農業が盛んな町として知られるところである。中村市に注ぐこの川は、非常に複雑怪奇な流れを従えている。一部が愛媛県域まで食い込んでいるほか、県境近くまで遡ったあと大きく東に流域を広げ、太平洋岸から僅か10キロのこの窪川が上流域とは、地図で知ってなるほどと思わせるほどの不可思議かつ広大な流域面積を誇っている。
 また、県南西端の幡多地域、伊予宇和島方面への交通の要地としての位置を占め、冷涼な気候を利用して農業が盛んで、特に平地に恵まれ稲作が盛んである。
 興津集落は、この窪川のイメージとは大きくかけ離れた外洋に直接面する町である。
 町域東部は太平洋に面しているものの、海岸に直接面する集落はこの興津のみである。川の上流域を占めるほどの台地状の地形が海に没しているので、海岸沿いにはほとんど平地がないためである。
 このような地形のため、興津への道は極めて険阻だ。台地の端をなす山塊が途切れると、太平洋を見下ろしながら急傾斜で海に駆け下る羊腸の細道となる。かつては海路からしかアクセスできなかった陸の孤島だったことが想像できる。
 降りついた先は意外とも思えるほどの平地が開けている。そして海水浴場・キャンプ場として夏場に賑わう海岸から一歩集落に足を踏み入れると、そこには海の匂いを余り感じさせない静かな家並が開けていた。興津地区はこの郷地区と岬に向って伸びた浦地区に大きく分かれており、特徴ある集落風景は郷の方に顕著だった。車の往来する道筋は平凡な田舎町の佇まいであったが、一歩横道に分け入ると、手入れ良く刈り込まれた土用竹の生垣が、路地の両側に連なっている。整然と連なるこの竹垣は、同じ県内の安芸市土居廓中を彷彿とさせる。もともと土佐では良く見られ、風や暑さを効率的にしのぐこの地域に適合した生活の知恵であった。しかし現在でも特に保存もされることなく自然な形でまとまって残っているのは興津の他には余りなく、貴重である。しかしこの竹垣も手入れの煩雑さなどもあり近年は激減していると言われ、のどかな風景も昔語りになるのかもしれない。
 この郷地区は農業集落である。背後には意外ともいえるほどの広さで水田が開け、園芸農業も盛んで他地域に出荷されているようだ。事実この竹垣集落内を歩くと100メートルほど先に広がっているはずの海の存在は、全く遠いものに感じてしまう。時を感じさせないような静かな風景が続いている。
 
 
 



訪問日:2003.08.16 TOP 町並INDEX