木野･小方の郷愁風景

木野の町並	木野の町並

	広島県最西端の町大竹は現在では化学工業の立地する工場地帯が海岸部に大きく広がっているが、かつては和紙の生産が盛んであることで知られていた。江戸末期の記録では現在の市域で紙漉きに従事する人は3,000人近くにも及び、最盛期となった大正中期では千軒もの製紙家があったという。 　小瀬川に面する木野地区は清く豊富な水をもって紙産業が中でも最も栄えたところだ。山裾に楮を植え、人々は紙漉きを生業とした。 　一方でここに紹介する町では、紙産業で栄えた商家の名残の家並とともに、山陽道の沿道にも位置しているため、街道集落的な要素も濃い。
木野の町並
木野は周防国との国境に位置し、小瀬川（当時は木野川）の渡しが往復した所だ。旅人のための川船6艘を常備し、対岸の小瀬村と昼夜交代で渡し守が付いていたという。堤防を下った辺りに古い町並が残っている。増水時などは、ここが仮宿のような役目を持っていたのではなかろうか。家並は明治期以降の建築がほとんどのようであったが、商家の造りらしく重厚さを感じさせる家々が多い。
小方の町並	小方の町並

旧山陽道は小瀬川を少し遡り、苦の坂という小さな峠を越えて海沿いに出ていた。そこに小方の町が展開する。ここも紙漉きをはじめ商業が栄えていたところであり、また港も有し諸国の廻船も立ち寄り問屋が多く建ちならんでいたという。江戸初期に福島正則によって亀居城が築かれ西方防備の拠り所としたことが町の成立ちであり、基盤はその家中町であった。また後になって山陽道の間宿的な役割も芽生え、大きな町場として発展を続けてきた。 　小方の町並は近代的な住宅地の一角であるため町家建築は連続して残ってはいないが、平入りで袖壁を両妻に張出した旧家があちこちに見られる。造り酒屋や漆喰の土蔵なども見られ、古い町並の雰囲気を醸し出していた。

小方の町並