九鬼の郷愁風景

三重県尾鷲市【漁村】 地図 
 町並度 6 非俗化度 8 
−入江の奥に位置する漁村 水軍の拠点でもあった−

             

九鬼漁港と町並


 三重県南部の海岸線は緩やかな砂浜海岸が続くところもあるが、多くでは複雑に入組んだ沈降海岸が連なり小さな入江が多数存在する。ここで紹介する九鬼はその中でも典型的な尾鷲市と熊野市の間にある漁村である。
 現在は紀勢本線の駅が設置されているが、かつては陸の孤島そのものの集落で、海からの交易が全てであった。中世には水軍・九鬼氏が蟠踞する地であり、秀吉の天下統一にも貢献して志摩の戦国大名に成長した。しかし関ヶ原の役で西軍についてしまったことから後に摂津三田に封じ込められた。
 背後が嶮しい山地で、外洋に向って穏やかな入江が開ける地形は要塞の地、海上交通の要衝として重視され、遠見番所や灯明台、狼煙場が設置されていた。廻船の多く行交う海域のため、安全航行の見張りや外国船の警備、狼煙による合図が盛んにおこなわれた。また荒天時には風待ち港として諸国の船が停泊し、数多くの船宿も存在したという。
 産業は一貫して漁業で、鰤の大敷網漁のほか、江戸期には捕鯨も行われていた。
 今でこそ国道よりトンネルを経て何ということもなく到達することができる集落であるが、陸路の発達は比較的近年になってからで、交通は海に頼る部分が多くを占めていた。そのような歴史を思いながらこの町を歩くと、新たな感慨を覚えるようだ。
 平坦地は皆無といってよい地形のため、家並は海岸線に平行に連なり、そこから山側は全て坂道となる。石垣と階段が支配する風景が展開する。雨の多い地域であるためか、あちこちに水量豊かな沢が流れ下り、流れの近くまたは流れを跨いで所々にほこらのようなものを見かけた。実態は不明であるが水を祀る風習があるのだろうか。
 海岸部にあるものは比較的構えが大きく、1階部分は多くが現代的に改装されているものの、2階部には木製の欄干が残されている姿が多く眼についた。これらは宿屋だった名残なのかもしれない。
 町の一番端に位置するところには九木神社が入江と漁港、集落を見守るように鎮座していた。
 
 






平地は極めて少なく斜面にも家並が展開している 





訪問日:2010.10.10 TOP 町並INDEX