嵯峨鳥居本付近の郷愁風景

京都市右京区<門前町> 地図
 
町並度 6 非俗化度 1 −愛宕社の門前町として多数の参拝者を集めた−
 


 鳥居本地区は嵯峨地区の最奥であり、嵐山周辺を起点に散策する観光客はこの辺りを折返し点に往路とは異なった道を辿りながら戻っていく。既に周囲に山地が迫り、市街中心部とは違って自然を身近に感じられるところだ。
嵯峨鳥居本六反町の町並




嵯峨鳥居本六反町の町並




嵯峨鳥居本仙翁町の町並 農家型の旧家が連なっている


 愛宕神社を頂点とした門前町として、谷間が徐々に幅を広げつつあるあたりに街村的に細長く連なる家並は、周囲の自然風景と調和し、また大切に伝統的な造りが守られて来たことから優れた集落景観を呈していて、重要伝統的建造物群保存地区の指定を受けている。
 寺院と民家、田園などの織成す洗練された風景が展開する嵯峨野とよばれるこの一帯は古くは貴族の遊興地として鷹狩や船遊びなどが行われ、また別荘が建てられた。源氏物語や平家物語を筆頭とした古書物や和歌などにも頻繁に登場し、近代以降にはそれらのイメージを求めて庶民も多く訪ねるところとなった。観光地としては古くからの筋金入りの地区といえよう。
 鳥居本背後の山腹は五山送り火の一つ鳥居型の送り火の焚かれるところである。そして愛宕神社は全国の愛宕社の総元締めをなす社であり、市街地より愛宕街道と呼ばれる道ができるほど訪れる人々で賑った。「伊勢は七度、熊野は三度、愛宕参りは月参り」といわれたほど盛んに行われたものであった。
 町並は町家風のつし2階建築がその基本だが、土蔵を多く従えていることが市街地の町並とは異なり、間口も広い。但し多くでは観光客を迎え入れる店舗となっており、一部では1階部分が商品を陳列するため大きく改装されている。しかし町家の質は高く、歩いていて古い町並を濃厚に感じることができる。
 中でも特筆すべきは愛宕神社の鳥居前付近では茅葺の屋根を残す農家型の建物が連なっていることで、それが町家建築群と接続していることは他の町並では例を見ない特徴である。むろんこれらの多くも土産物屋や食事処として訪問客を受け入れているのだが、建物の質感が高いためか余り気にならない。洗練されたという形容が全くよく似合う風景である。
 付近には化野念仏寺がある。この地ではかつて風葬の習慣があり、空海がその遺骨を集めて供養したのが始まりである。境内には無数の石仏があり、風化したり傾いたものもあり訪ねると神妙な気分になる。そのような寺院もあることから、嵯峨野の奥の院的な雰囲気を感じさせる一帯である。
 観光地としてはもはや成熟した地区であるため、今後これ以上風致を乱す建物や町家の改装などが急速に進行することはなかろう。いつまでも訪ねる者の心を落着かせそして感銘を与えるところであってほしいものだ。 


嵯峨鳥居本仙翁町の町並 嵯峨二尊院門前北中院町の町並


訪問日:2010.12.05 TOP 町並INDEX