鷺浦の郷愁風景

島根県大社町<漁村・港町> 地図 <出雲市>
 町並度 7 非俗化度 8 −出雲大社の裏側に見られる漁村の原風景−
 


穏やかな湾奥に開ける鷺浦の風景


 島根半島の北岸はその多くの箇所で山地が平地を作らずそのまま日本海に没している。
 出雲大社を訪問した観光客は、神社より車で15分ほどの日御碕を見物し、それで終ってしまうことが多く、この島根半島裏側の漁村は、外来者は釣客くらいで地元以外ほとんど知られていない。
 この鷺浦へは、神社脇から細道を辿り、峠越えをして15分ほどである。しかし半島の裏側という、通過点にもなりにくい環境が、我が国でも貴重といえる漁村風景を残すことになった。
 鷺浦の集落は海沿いに流れこむ川の河口付近に開ける微かな平地にへばりつくように展開している。家並はほぼ山陰地方らしい赤褐色の瓦で被われている。また街路形態も特徴的で、特に町並東部では一本のやや広い道の両側に、奥行30mほどの路地が整然と櫛の歯状に分かれている。路地は山側では袋小路となり、海側も今では車の通る湾沿いの道であるが、かつては直接港となっていたのであろう。
 そして、この小集落に不似合いとも言える古いどっしりした旧家が多く残っているのも特筆に価しよう。漆喰に塗りこめられた町家風の建物が眼につき、二階部分には張瓦、一階は板塀、正面部には格子、時に軒をやや前に出して、漁具を収納する仕組となっているものも見かけた。
 一方で湾奥に位置するこの港は古くは西廻り航路の寄港地ともなっていたことが、町家風の建物が見られることにつながっているだろう。代表的な塩飽屋(屋号)住宅は、塩飽諸島の塩を扱う廻船問屋であった。他にも各民家には屋号が表札とともに掲げてある。但馬屋など地名を由来にしているもの、西浜屋、岩棚など地形に関するもの、姓名をそのまま用いたものなど様々で、それらを瞥見しているだけで興味深い散策となる。漁具などにも屋号で名前が記されていることから、地元では姓でなく屋号で呼ぶのが通常であるらしい。
 路地はひっそりとしており、時折住民の方の独特の出雲弁が聞えるだけである。しかし、今回再訪問してみると、旧家などを案内する表示板が所々に立てられているのを眼にした。以前は全く普段着のままの町並であったのだが、わずかながらも訪問する人が出てきたのかもしれない。
 この漁村風景は外部から保存の手を加えることなく、いつまでも残っていてほしいと願って止まない。




廻船問屋であった塩飽屋(右)




海岸に直角に伸びる縦の通り 日本海が見える




         

※画像は全て2007年11月再訪問時撮影


訪問日:2002.09.15
(20007.11.03再取材)
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