三輪の郷愁風景

奈良県桜井市<門前町> 地図
 
町並度 6 非俗化度 7 −大神神社門前に各種商業が発達した−




 桜井市三輪は大和盆地の南東部にある、古くは大和国一宮として信仰を集めた大神(おおみわ)神社や周辺の諸寺の門前町(宮前町)である。集落東方の山裾にあるこの神社は、背後の山を神体とし、神殿を持たないという古い神社形式を留める我国最古の神社の一つとも言われている。




「みむろ」の老菓子舗


 現在の三輪の中心集落は、歩いても30分あれば一巡できるほどの小さなものである。しかし辻々に大和の古い町並らしい風景が残る。
 ここは門前町としてだけでなく、平安末期から市の開かれる地であった。これは奈良方面より初瀬(桜井市東部、長谷寺の所在地)、伊勢への交通の要地であったためだ。中世には鋳物師の座もあり、日用品から寺の梵鐘鋳造にも携わったといわれる。また神社参拝客に喜ばれたのが飴粽(ちまき)で、旅人を慰める三輪名物となっていた。
 江戸時代に入り人の往来が盛んになると門前町・市場町としての発展が頂点を迎えた。商人、問屋街が発達し、交通の面でも人馬の継立てなどが行われたようだが、宿駅としてはほとんど機能していなかったようだ。門前町ということもあり茶屋、土産物屋も多く、中でも素麺の生産が盛んとなり名物として販売された。当時の高取藩主が幕府への献上品としたともいわれ、今でも三輪素麺の名で知られている。宝歴13(1763)年の村明細帳に、「女ハ奈良芋かせ素麺稼仕候」とあり、素麺の生産は女性の副業であったらしい。
 三輪の集落内には日本一の大鳥居があり、存在を示している。その東側を中心に古い町並が見られる。古い街道沿いであったことから道標も残り趣のある小路である。本瓦を葺いた煙出しの小屋根のある旧家も残っていた。門前町・商人町・問屋町・街道町の機能を持ち繁栄した当時の様子が、十分に想像できる町並である。
 今に残る立派な店舗の姿にそれを強く感じる。「みむろ」の暖簾の下がる和菓子店は江戸後期より変わらぬ味の最中を販売し続けている。「三諸杉」の今西酒造は玄関先に大きな杉玉と酒樽、昔ながらのくぐり戸付きの大戸を残している。万葉集で「味酒(うまさけ)」は三輪の枕詞とされ、ここが酒造りの発祥地とも云われている。確かに山裾に位置するこの付近では古くから酒造りに適した良質の水に恵まれていたのだろう。いずれも間口の広い伝統的な建物を店舗とし営業を続けており、自らが古い町並の景観を形成していた。




  「三諸杉」の今西酒造 
 



 

2020.09再訪問時撮影

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訪問日:2002.10.14
2020.09.19再訪問
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