佐久島の郷愁風景

愛知県一色町【漁村・農村集落】 地図 <西尾市>
 町並度 5 非俗化度 5  −黒板塀の家々が連なる三河湾の島−






西港側の集落風景


 佐久島は一色港から10km弱の三河湾に位置し、定期船が7往復ほどしており比較的交通の便は良い。港は島の南西の小さな入江にある西港、東側の東港がありそれぞれ背後に集落が展開している。平地は東港付近に見られる程度で全体に山がちの地形であるが、険しい山地はなくなだらかな丘が起伏する地形を示している。
 三河湾の入口付近に位置することから海運の拠点であり、江戸廻船も行われた。島で生産される海鼠腸(このわた)は良質とされ幕府の献上品であった。伊勢宮への参宮客、物資の中継地となり、また明治に入ると東京や名古屋などの都市部との交易も増えた。
 西港側の集落は、海岸部にも家々があるが主に丘の上に展開しているのが特徴であり、半農半漁の集落であった一方、東港側は漁業中心で発展した。
 島の家々の特徴で一番に挙げられるのが、家々の外壁が黒板塀で覆われていることだ。この黒板は、防虫などのために焼板であることもあるが、ここではコールタールを塗布していることで黒い外観をしているという。これは塩害を対策してのもので、両集落に共通している。黒板塀は知多半島の集落でも良く見られるのでその影響もあるのだろうか。江戸期は幡豆郡に属し三河国に位置するも、渥美半島を中心に多く見られる長屋門風の門構えは余り目に付かなかった。
 この島は観光業も盛んで、釣りや海水浴客などのために東港付近には旅館や民宿が見られ、また現代アートの島としても知られている。西港側の集落にある大葉邸は島を代表する邸宅で築約100年、空き家となっていたのを2002年から4期にわたり作品化されたという。アート作品というより整備されたといった方が適当であり、建物の原型が損なわれておらず好ましいものがあった。当家の周囲には黒板塀の家並や土蔵などの見られる路地風景もあって、佐久島を象徴する区域である。 
 




西港側の集落(大葉邸とその周囲)
 

  
 

 東港側の集落は平安時代に勧進されたという八劔神社の鳥居前付近が中心と思われた。そこから面的に家並が展開するが、迷路状の路地が多く歩いていると同じところに戻ったりする。立派な門を持つ家もあり漁業の収益で豊かだったか。明治以降も漁業組合を結成し海鼠腸のほかに蛸壺漁、天草、ワカメなどの採取漁業などが盛んに行われた。但し、空き家となっている御宅も少なくなく、土蔵だけを残して更地になっていたりと人口減少により活気が低下している様子がうかがえた。
 黒板塀の家々が建ち並ぶ姿から三河湾の真珠とも形容され、シーズンには観光客の訪れも多い島であるが観光地化が進んでいる様子はなく、素朴な集落風景が保たれている点は好感が持てた。
 












東港側の集落風景
 
訪問日:2024.01.04 TOP 町並INDEX