佐原の郷愁風景

千葉県佐原市【商業町・門前町】 地図 <香取市>
 
町並度 7 非俗化度 2  −水郷の商業都市−






佐原の旧香取街道沿いの町並


 佐原市は千葉県の北東部、利根川右岸に接し、川を隔てて茨城県と境をなしている。この町は列車の運転系統などから見ても東京都内への通勤圏の外縁部にあり、地方都市らしい静かな町並が広がっている。利根川に流れ込む小野川付近には、重要伝統的建造物群保存地区に指定された古い町並もあり、風情ある町である。
 この小野川が佐原の繁栄の基礎をなしている。江戸期には、上流の各村からの物資が佐原河岸と呼ばれるこの付近に集められ、利根川水運に乗せられた一方、江戸方面の人々の吸引力もここにはあった。現在も市街地の東部に鎮座す香取神宮、そして利根川北岸の鹿島神宮への参拝客は、舟運を経てこの佐原に降り立った。銚子方面に向う旅人も利根川を下ってくる客が多かったことから、水上交通の要衝ともなって彼らを相手にする店舗も次々と建ちならび、商業都市としての賑わいを示した。特に醤油屋や酒などの醸造業が栄え、参詣客もそれらを土産に帰っていったという。
 古い町並は小野川にかかる忠敬橋を要とした十字状に残る。ちなみにこの忠敬橋とは佐原出身の歴史的な測量・地理学者、伊能忠敬に因んで名付けられたものだろう。利根川下流域の低湿地帯にあるこの地方は水害に悩まされ、治水のために算学が要求されたことが、伊能氏の他多数の学者を輩出した基盤となったそうだ。
 佐原の町並は川沿いの柳越しに見える土蔵などをもって紹介されることが多いが、忠敬橋に続く街路の方が古い町並としての充実度が高い。黒漆喰に塗り回された店蔵が、観音開きの土扉を通りに向けて開いたりしているのは重厚な見応え充分で、古い町家を利用して現代の観光客に対している品々も醤油などをはじめとして蕎麦、乾物など地場の産物を扱う地味なものであり、観光地のような画一化されたものでないものであることも好印象である。
 この道筋は香取街道と呼ばれ、周囲の小街道を集め、また利根川を下った旅人が香取神宮へと向っていった道でもあったことから、町の中心として明治以降も繁栄は続いていった。明治31年に総武鉄道が佐原まで伸びてきたあと、銚子まで延伸されるのは昭和に入ってからと、かなりの時期この町は千葉県北東部の交通拠点となっていた。鉄道によって利根川水運は廃れたが、香取神宮・鹿島神宮への門前町として賑やかだったのだろう。現在残る伝統的な家々も、多くはその頃の名残であるようだ。洋風の建築物が幾つか残っているのも理解できる。
 一方小野川沿いは、連続した古い町家の風景というより水際の風情ある散歩道といった風情で、こちらもまた別の味わいがある。所々に古錆びた土蔵や旅館建築、町家建築が残り、観光客を乗せた小船が行き来していた。この川はかつて荷を積んだ船が利根川を経由して上下し、「だし」と呼ばれた小さな船着場から商家に物資を運んでいたという。今では河川改修もあって姿を消してしまい、かつての河岸に見られるのは町並探訪客のみであった。
 




忠敬橋と背後の町並 小野川には観光船の姿も見える




小野川沿いの町並 小野川にかかる樋橋 正面は伊能忠敬旧宅




旧香取街道沿いの町並 小野川筋の西側 裏通りの町並
 
 
訪問日:2006.11.04 TOP 町並INDEX