十根川の郷愁風景

宮崎県椎葉村<山村集落> 地図
 
町並度 6 非俗化度 5  −石積を用いて斜面を克服した山岳集落−




 椎葉村は宮崎県の内陸部、九州山地の脊梁近くにある。耳川の支流の開いた谷間の傾斜地に、独特の展開を見せる十根川集落がある。
十根川集落 石垣により階段状に展開する











 

 重要伝統的建造物群保存地区に指定されたこの集落を特徴づけるものは、急傾斜地を石垣を用いて階段状の宅地を造成し、横一列に並んだ農家や畑地などが構成する古くからの集落構造が維持されていることである。特に石垣はその風合いや古錆び方から非常に印象的な風景を創り出し、美しさを感じさせる。
 椎葉山84ヶ村では最も古い村落といわれ、焼畑による農耕が生活の中心であったという。
等高線に従い石垣を何段にも積み上げたため、住宅は自然に横長く、間口方向が非常に広くなっている。そのことが農村集落でありながら非常に見応えのある家屋に映る。3から4部屋が横一列に並んでいる例が多いという。各部屋の間仕切りを外せば冠婚葬祭にも使うことができる。
 石垣は石灰岩を乱積みしたもので、練積のため強い構造だ。一段上の土地に向かうには階段を使う。しかし数か所しか設けられていないため、移動の際には長々と民家の前を歩くことになる。街路か家の庭先か判然としないところも多い。集落内の人々のみの通路であり、外部の人間が通過することを考慮する必要はないため公私の境が曖昧であるようだ。
 山間集落の例にもれず過疎に悩まされ、人の姿もあまり見ない静かな集落だ。しかしここには古くからの伝統が守られ、共同体としての相互扶助関係により住民同士の深い絆が守られ、また伝統行事も受け継がれている。特に十根川神社に奉納する神楽は国の重要無形文化財に指定されている。
 集落からは離れるが、椎葉村の中心集落である上椎葉地区には一列平面形式の間取りを残した典型的な豪農邸宅・那須家住宅があり重要文化財に指定されている。江戸時代後期の建築とされ、椎葉型と呼ばれる伝統的な建築形式がみられる典型例として訪ねる価値の高いものである。




上椎葉の那須家住宅(重文)


訪問日:2011.04.30 TOP 町並INDEX