下栗の郷愁風景

長野県上村<山村集落> 地図 
 
町並(集落景観)度 6 非俗化度 4 −斜面を最大限に活用した代表的な山岳集落−





下栗地区を俯瞰する 集落の一部が見えているに過ぎない

 

 下栗地区は天竜川の支流・遠山川の上流域に展開し、両岸が急峻な崖となり、赤石山脈にその源流を見る。
 谷あいは余りにも急斜面であるため、集落は右岸中腹の標高800〜1200mほどのところに散在している。多くの小集落を総称して下栗地区と呼ばれている。等高線に逆らってたどることは到底困難で、細い山道は何度もヘアピンカーブを繰り返しながら折り返し合い、その間に民家や耕地が挟まり、小規模な集落を形成している。道路から崖下を見下ろすと恐怖感を覚えるほどの急斜面である。
 ここが日本のチロルと呼ばれるのもこのような究極の斜面上山岳集落だからで、訪ねる人々を容易に寄せ付けぬような雰囲気が感じられる。こういう地区によくある平家の末裔集落という伝説もあるが定かではないようだ。40度にも達しようかという斜面では、下から耕すと土砂が崩れ落ちてしまうので、独特の長い柄の鍬を用いて上から切り拓いたといわれ、耕して天にいたるという言葉とは逆に天から耕したというような格好になっている。しかし、斜面は南に面しているため日当たりがよく、また標高の割には雪の少ない土地であることが幸いし、蕎麦や芋、茶などを栽培するには適していた。
 林業も盛んで、江戸時代には榑木(くれき)村と呼ばれたほどだ。榑木とは檜などの針葉樹から加工された木材のことを指し、その生産で江戸幕府の需要に応えたそうで、実際年貢として幕府に納めていたという。
 聞くところによると、以前は地元の方以外にはほとんど知られることもなく、文字通りの天界の村・秘境といった風情だったというが、訪ねてみると観光客の姿が非常に目立った。集落の上部には食事処と宿泊施設があり、折しも夏のシーズン中とあって観光客でごった返していた。
 さらに、集落を俯瞰できる展望スポットが整備され、満足に撮影どころではなかった。掲載している1枚目と2枚目の画像はそこから撮影したものだが、しかしそれがなければなかなか下栗集落の全貌が把握できないだろう。それほど斜面が嶮しく、また集落が散在しつかみ難いものである。
 「下栗の里」としての売り出しは余り感心できないがしかしそれだけの価値はあるところである。スケールが大きすぎて写真ではなかなかお伝えしづらい。現地に足を運ぶことでその厳しさと雄大さを感じることができる。




石を投げると屋根に当たりそうなほどの急斜面だ




遠山川の流れははるか眼下である

訪問日:2011.07.17 TOP 町並INDEX