塩野の郷愁風景

奈良県天川村<山村集落> 地図 
 
町並(集落景観)度 4 非俗化度 10−奥吉野の典型的な斜面上集落−



 吉野地方の山間地帯を象徴する集落風景のひとつがこの塩野集落に見られる。北部の吉野川(紀ノ川)水系ではなく、和歌山県新宮市に流れ下る熊野川水系の最上流部にあたるこの地域では険しい谷間が刻まれ、集落は水害を回避しある程度の耕地の求められる斜面に展開する。











 この塩野集落は支流天ノ川の谷にへばりつくような山村だ。川沿いの県道からまさに羊腸の細道を幾重にも登り、はるか眼下に谷底を見下ろす位置に来て家々が展開し始める。江戸時代には意外にも幕府直轄領(天領)であり、大坂城に毎年矢篦竹(矢の材料になる竹材)を上納していたという記録もある。
 しかし実態は純粋な山村集落として経過していたようで、豊かな山林資源を後背地に持ち木材の産出、牛の肥育などが行われ、農業も甘藷や馬鈴薯などの芋類、大根などの根菜類を中心に村の生業の中心をなしていた。明治の頃は約50戸の家屋、200人余の人口を擁していたと記録されている。
 急斜面上のところどころに耕地があり、雛壇のように作物が植えられまたその余地のない箇所では作付面自体が傾斜している。家々は一部では頑丈な石垣が構築されその上に立地しているが、多くは斜面にへばりつくという表現そのものの印象である。
 自然に屈しない集落としての強さを感じる一方、過疎の波にさらわれてしまわないように願いながら後にした。




付近には他にも険しい斜面に開ける集落が散在している 広瀬集落


訪問日:2011.08.14 TOP 町並INDEX