菅浦の郷愁風景

滋賀県西浅井町<漁村> 地図
 町並度 5 非俗化度 6 -湖北の隠れ里と呼ばれる穏やかな集落-

             

湖と山に抱かれるような菅浦の集落 須賀神社横の高台より集落を見る




菅浦集落の風景。石垣も特徴的である。




菅浦集落の風景

 

 琵琶湖の北部は山が鋭い角度で湖水に落込み、湖岸線も入組んでいる。南部の風情とは随分趣が違う。竹生島などの小島を半島から望む風景は湖北独特の幽邃な雰囲気がある。
 この菅浦集落は琵琶湖に突出した半島の一つに開ける小さな漁村である。桜の名所海津大崎の東側、複雑に入組みながら湖に向って伸びる半島を先端に向けて走ると、穏やかな入江に抱かれた小さな集落が見えてくる。
 この菅浦には隠れ里という言葉が対句のように用いられる。実際、昭和46年に至るまで陸路がなく、集落への交通は舟によるしかなかった。島でもなく増してや湖岸の集落である。確かに隠れ里と呼ばれるのも無理はないところだろう。
 隠れ里云々というにはそのような物理的な要因だけでなく、かつてこの村は惣と呼ばれる独特の自治組織が存在し、集落の入口を厳重な門で固められ独自の政治が執り行われていたこと、平安時代にまで文献に記録が残るほどの古い集落であることも起因しているだろう。江戸期はほぼ全期に亘り近江膳所藩領であった。
 菅浦は琵琶湖交通の要津であり、古くからの漁港であった。
 町の西端にある須賀神社は今でも数々の伝統行事が行われている。集落の規模には不似合いな大きな神社で、この存在も集落の神秘性を高めているといえる。
 海とは違い潮の干満もない水際線は穏やかそのもので、大きく茫洋と広がる水平線には海の感覚も覚えるが、波打際の石に苔が生えているのは紛れもなく湖である。繋留された漁船も小規模だ。
 集落内は静寂が支配していた。訪ねた時は桜の満開期で、この集落の手前から斜面を駆け上がり、半島を一周する自動車道は観光客の車やツーリングを楽しむ単車などで通行が絶えなかったが、別世界のようなところであった。元々が半農半漁の集落であるゆえ、大規模な商家や町家が残っているわけでなく、保存に値するような古い町並が連続しているわけではない。しかしこの湖水と背後の山地を控えて、この集落は今でも秘境といえるような雰囲気を濃く残していることで、郷愁を感じさせるに十分なものがあった。
 集落の湖側は古い石垣が続いている。かつての防波堤であろう。このように琵琶湖北岸の集落には石垣による護岸が古くから築かれていた。歴史を感じさせる風景である。
 菅浦は冬の厳しい湖北にありながら、南が湖に面し北が斜面であることもあって蜜柑栽培も行われたという穏やかな地である。集落を見下す北琵琶湖パークウエーからの眺めは、まさに湖と背後の山にやさしく抱かれた平和そうな里という印象であった。


訪問日:2005.04.17 TOP 町並INDEX