田子の郷愁風景

静岡県西伊豆町<漁村> 地図
 町並度 5 非俗化度 10 −風光の優れた海岸の一角に開ける漁村−






田子の町並 石蔵と海鼠壁の民家が特徴的であった

 

 西伊豆町はその通り伊豆半島の西岸にある町で、東岸に比べるとやや交通の便が悪いこともあり連なる町や集落にも自然体の趣が漂っている。
 この田子は、海岸の景勝地・堂ヶ島に隣接する漁村集落で、国道は山側を迂回しているためもあって非常に静かな漁師町の風情が保たれていた。駿河湾から湾入した田子湾は波静かであり、早朝の訪問であったが、港には漁船が舫われ、雑談に興じる漁師の姿も見られた。
 平地は極めて狭いため、集落は密集型の漁村独特の展開を示す。海岸線に沿った新道、そしてその一つ内側のかつてのメイン道路、そこから集落内部に向けて派生する数本の街路以外はほぼ漁村独特の狭い路地が支配しており、しかもその展開は秩序立っていない。
 この田子では建物に二つの特徴が見られた。一つ目は石造の蔵で、海岸通から狭い路地の一角を問わず、あちこちに残っている。伊豆半島は良質の石材の産地でもある。あと一つは海鼠壁に縁取られた民家で、これは特に家並の密集度のより高い集落の北側で見られる。一般に海鼠壁は土蔵にあってはその裾部分、家屋にあっては二階正面部など、その一部に意匠として用いられるものだが、ここでは壁面全体にわたって見られ、その姿はなかなか壮観である。
 かつてより漁業で生計を立ててきた純粋な漁村で、特に鰹漁が盛んであり鰹節は江戸とも取引が行われていたという。小規模な漁村らしい家並が展開する中で、海鼠壁の大柄な商家風の建物が狭い路地の中に見られるのはその名残かもしれない。
 漁港には高い堤防が築かれ集落からは海が全く見えない。この付近は地震による津波の影響が大きい地区とされ、集落を歩いていてもその地点の標高と津波高さの予測が随所に示されているのが眼につく。そもそも海鼠壁も以前津波により被害を蒙ったことによる対策なのだという。






訪問日:2007.05.27 TOP 町並INDEX