高山の郷愁風景

岐阜県高山市【城下町・商業町】 地図 
 
町並度 10 非俗化度 1  −山都と形容するにふさわしい飛騨の中心地−



大新町一丁目の町並(重文日下部家付近)


 高山は全国で最も有名な古い町並といってもよいかもしれない。朝市その他惹きつける要素はあるにせよ、ここを訪れる観光客の一番の目当ては町並といって良いだろう。町並でこれだけ集客力があるというのはやはり他に類を見ないし、また町家群はそれに見合うだけの高い質を保ち、また大規模に展開している。








上三之町の町並


 
 重要伝統的建造物群保存地区の中でも特に上三之町という町筋においてその真骨頂が見られ、北陸と共通する、二階部分がせがい造りとなった平入り町家が極めて高い純度で連続するその景観は「絵に描いたような」古い町並であり、訪ねる者に深い感動を与える。
 但し、観光地であるゆえに週末の日中は雑踏ともいえる状況となり、また町家も大半が店舗で観光客に目が向けられた構えとなっている。従ってそのようなときに歩くと町並から情緒を十分に感じることが出来ない。じっくりと味わいたいなら早朝か夕方、あるいは冬場に訪ねるに限る。残念ながらこれが高山の実態でもある。しかも、建物のほとんどは保存のため手が加えられており、造りは古いものではあっても建材などの外観は古びているという印象ではない。
 しかし、これだけの町並がテーマパークで再現できるだろうか。実際歩いてみると、やはりここは歴史と生活に根ざした、活きた古い町並だとの結論に達するだろう。生活して居られる方の意識の高さは感慨すら覚えるほどであるからだ。例えば客の雑踏を迎えるまでに、各家では毎朝柄の長い箒で軒の上まで掃除をし、通りの両側に流れる清い水で打ち水をし、玄関先に植えられた草花に水を遣る。
 この町並は三筋に商家町が展開する三町構成と呼ばれる。金森長近がこの地に移り住んだ16世紀末の天正年間から本格的な街づくりが始まり、東の丘陵にあった高山城を修築、ふもとの町人町を本格的に整備してその中間に武家地を造成している。金森氏は商品経済を重んじ、他の城下町と比べても広い町人地を計画し商人を住まわせている。山国飛騨にとって貴重な盆地の中心にあるこの高山は交通の要衝、物資の流通の中心でもあったことから飛躍的に町は発展していった。飛騨の匠と呼ばれる木材加工を中心とした手工業や産業も盛んになり、一大商業都市となった。それは江戸期、幕府の天領として位置づけられていたことと無関係ではないだろう。
 高山は古い町並保存の先進地ともいうべき町であるため、町人文化の粋を感じるその洗練された家並もさること乍ら、保存のありかたにもやはり先駆者の斬新さを感じることが出来る。銀行その他あらゆる現代文化を象徴する建物が古い町並に同化するよう修景されている。伝統的な町家建築が主役の町景の中にあっては、それらはわざと造ったような雰囲気というよりはもはや自然の一部といった感触すら覚える。古い町家風の外観を持った新築の建物は、悪い言い方をすれば古い町並にとっては邪魔な風景となる。しかしそれすらも、高山では古い町並の一部として溶け込むことができるようだ。高山の人々の高い町家に関する知識と誇りがそうされているのかもしれない。
 高山の町を感じるならやはり宿泊することだろう。観光客の途切れた薄暮の町並を散策してみるのも趣深いし、早朝より宮川沿いでは朝市が毎朝開かれている。扱われる品々は特産の漬物や新鮮な野菜、味噌などの素朴なものばかりである。
 



上二之町の町並



下二之町の町並


上三之町の町並


宮川沿いの朝市

訪問日:2008.06.07・08 TOP 町並INDEX