水引の郷愁風景

福島県舘岩村<農村集落> 地図 <南会津町>
 
町並度 6 非俗化度 6 −ほぼ全戸が茅葺屋根を持つ貴重な集落−








 ここ水引集落があるのは湯ノ岐川の谷間で、この川は舘岩川、伊南川、只見川と合流し、最終的には会津盆地の西外れで阿賀野川となって日本海に流れ下る。会津地方でも再奥に位置し標高も高く、冬の気候の厳しいところである。







 この集落での建物の特徴は茅葺屋根の残る民家が多数見られることで、それらは母屋に平面的に突出部を設け、玄関口を位置させた造りが目立つ。これは中門造りと呼ばれ、東北地方の日本海側や新潟など雪の多いところでよく見られる建て方だ。中門には玄関と母屋への通路の他、厩(牛馬を飼っておく部屋)を置くこともあるという。曲屋とも呼ばれ、この呼称の方がどちらかというと一般的だ。
 湯ノ岐川を遡る道は峠を越えて下野方面に通じているが、『会津風土記』では「馬不通」とあるように、大きな通行には適さなかった。そのためほぼ純粋な農山村として息づいてきたようだ。明治の頃の家数14との記録がある。水引村という独立した村だったが、明治8年に下流側に隣接する湯ノ花村と合併している。ちなみに旧湯ノ花村の中心部にはささやかな温泉街が展開している。
 集落付近は小盆地状の比較的平坦な地形で、東側に耕地が広がり訪ねたときには蕎麦畑となっていた。家並は一本道に街村的に展開しているものの、母屋の前に土蔵を構えたもの、広い前庭を持つものなどがあり、その点農村集落的な町並風景だ。一方で蕎麦畑の方から裏手を見ると、比較的整った家並として映る。それらが軒並茅葺の屋根となっていることで、貴重な集落景観を眼にすることが出来る。
 今残る家々は、明治中期の大火後に越後の大工により再建されたものという。軒数は少ないものの、屋根そして建物の状態もよく、近隣の重要伝統的建造物群保存地区に指定された前沢集落に劣らない質と集落景観を持っている。聞く所によるとある大学教授が私費で屋根の修繕を負担しているとのことである。
 




集落裏手からは家々の並びを見ることができる

訪問日:2015.09.20 TOP 町並INDEX