栃本の郷愁風景

埼玉県大滝村【山村集落】 地図  <秩父市>
町並度 5 非俗化度 7 −甲武国境を控えた峻険な斜面に立地する集落−





 秩父地方と甲府盆地を結ぶ国道140号。今は長大トンネルで呆気なく甲武国境を越えてしまうが、かつてここには雁坂峠という難所があった。峠を控えた最後の集落がこの栃本である。






栃本集落 旅館らしい立派な建物も残る


 集落は荒川上流左岸の斜面に立地し、典型的な山村集落の様相を示す。急斜面を耕して畑が作られ、さらにその下にささやかな家々の集まりがある。谷は深いが対岸の眺望は利き、雄大な風景の元にある集落である。
 ここには戦国末期から江戸期にかけて関所が設けられていた。雁坂峠を通る道は、当時甲州街道と中山道を結ぶ役割を帯びており、裏街道的に通行する者も少なくなかったという。秩父往還と呼ばれたこの街道は甲信と武蔵との最短経路でもあり、戦国期には武田・上杉・小田原の北条氏の前線基地ともなり、栃本はしばしば戦場となったという。
 また信州へむかう街道への分岐点ともなっていたことや峠を控えていた地であることで、ここに一泊の宿を求める旅人も少なくなかったという。宿駅というほどの機能はなかったようだが、街道集落としての賑わいもあったようだ。寛永20(1643)年には既に1日100人を超える通行人があったとの記録がある。江戸中期頃からは物流だけでなく三峰詣や善光寺・身延山などへの信仰客の巡礼道としても大いに利用されたといわれる。
 主立った集落は国道の旧道である一本道沿いに展開する。これが旧秩父往還なのだろう。旅館らしい立派な建物もあり、なるほど街道集落的な役割を持っていたらしいことがうかがえる。周囲には民宿の看板を掲げた建物も散見された。これらも元をただせば往時から宿泊業を営んでいた家なのかもしれない。
 集落中心から東へ少し外れたところには関所の役宅の建物が保存されており、貴重な遺構として国の史跡に指定されている。
 








栃本関所跡

訪問日:2018.09.23 TOP 町並INDEX