常滑の郷愁風景

愛知県常滑市【産業町・港町】 地図
 
町並度 6 非俗化度 3 −焼物そのものが形成する独特の町並風景−





焼物工場が織成す独特の風景が展開する栄町付近の町並
 

 常滑は陶磁器産業が盛んで、常滑焼の名で知る方も多いだろう。近年では市域の沖に中部国際空港が建設され、空の玄関ともなっている。
 常滑焼は食器などの小型のものとならび、甕や壷、鉢などの比較的大型品も生産の中心としている。歴史は室町時代にまで遡るとされており、江戸時代初期には幕府の圧力により生産量が激減したが、後期には活況を取戻している。朱泥と呼ばれる常滑独特の技法が創出され、原料となる良質の粘土が南に接する現在の美浜町域周辺で多く入手できたことも好都合であった。
 市街中心部の東に接する丘陵地帯、対岸に空港を望むあたりは焼物の町の真髄が見られる。付近は古くから窯場が集中していた地区で、一部には明治中期に建設された登窯と呼ばれる施設も残る。煉瓦を幾重にも積上げた大規模な構造で、一度に大量生産も可能となり生産性が飛躍的に向上した。明治末期頃には登窯は60基ほどもあったといわれ、常滑焼の隆盛期を迎えた。
 丘を縫う細道は秩序なく曲がりくねり、また路地を派生させながら続く。探索者の為にやきもの散歩道として二つのコースが設けられており、細かい道案内もあって比較的手軽に巡ることが出来る。途中には登窯の他、土管坂と呼ばれる土管や甕を土留替りに使用した斜面が両側に展開する坂道など、象徴的な風景が見られる。その他にも黒板壁に縁取られた小さな焼物工場、軒先に焼物の無人市を出している民家などが自然な姿で見られる。そして、路地や野良道に至るまで、塀や擁壁、また或るものは軒先の鉢植えなどとして様々な姿で使われている。不出来の製品を再利用しているのだろうが、そのあまりの多さにもしかすると土木資材として別途に焼かれたのではないかとも思ってしまう。それほど多用されており、いずれも町の風景の一部としてきわめて自然な表情をしているのが印象的だ。観光客の散策のために整備されたものであろうが、その気配が感じられるのは土管坂やごく一部の窯元などで、多くでは生活風景と一体化しているところに高い価値が見出せよう。
 散策路の一角には廻船問屋であった瀧田家の屋敷が保存され公開される。知多半島西岸では代表的な港町でもあった。廻船問屋は上方や江戸とを往復し人々の生活を支えていた。往時、窯元の密集する丘に接して廻船問屋もあったわけだ。
 全国に窯業で栄えた町は数多くあり、伝統的な佇まいを残す所も多い中で、「製品」そのものがこれほど風景に溶け込んでいるところも珍しい。観光客・散策客を取り込もうとする姿勢も見る限りでは地味なものであり、黒板塀に被われた窯元などの素材を十分に活かし風情を引出している。特に伝統的な建物が多数見られるわけではないが、特色ある面白い町並である。 
 
 





塀などに多数の焼物が用いられている
廻船問屋であった瀧田家 邸宅は斜面上に巧みに建てられている



窯元の煙突が見られる風景



土管坂





訪問日:2008.03.23 TOP 町並INDEX