杖立温泉の郷愁風景

熊本県小国町【産業町・在郷町】 地図
 町並度 5 非俗化度 4  −谷間に建ち並ぶ旅館群が印象的な温泉街−





川沿いに中小規模の旅館を中心に連なる杖立温泉の町並


 杖立温泉は筑後川の上流にあたる杖立川沿いに展開している。小国町中心部付近で盆地を形成し中小支流を集めた後は、この付近で深い峡谷をなし、谷間に密集した旅館群というのがイメージされるところである。
 温泉の歴史は1800年ほども前に遡るとも云われ、弘法大師や神功皇后にまつわる伝説もある。また杖を持って湯治に訪れた客が、帰る時には杖を忘れるという温泉の霊験を讃えた由来もある。
 江戸期には、長崎奉行の通行や日田の代官などがここを経由して豊後方面へ向っていたことから、ここで休泊し温泉を利用したという。湯治場として次第に一般の訪れも増え知名度が増し、文人墨客の利用も多かった。
 崖沿いの断層地から湧き出る温泉は100℃にも達し、一旦河川水で冷却したのち旅館に配湯されている。川沿いにはその施設が幾つかあり、濛々と湯気が立つ風景は杖立温泉のシンボルと言っても良いだろう。下流側では大型観光旅館も見られるが、一部は団体客の減少のためか廃墟化したような建物もある。しかし多くでは中小旅館が所狭しと建ち並んでおり、日帰り客も受け入れている宿も多いため日中でも多くの客の姿がある。
 温泉街を訪ねて、まず印象的なのは川岸から見る対岸の旅館群だが、旅館の並びに至るまでも細い路地が支配し、その所々からも湯気が立ち昇っている。この路地は背戸屋と呼ばれ、家々の勝手口をつなぐ生活道路という。最近は、地元住民による背戸屋を巡るガイドなども行われているようである。
 昭和時代には九州の奥座敷と呼ばれ多くの客を迎え入れたが、平成期になってやや衰退した。しかし時を経て、昭和的な風情を感じる温泉地として注目されるようになった。停滞が逆に功を奏し、大規模な開発や観光地化が押えられたことで今の姿がある形となっている。
 




 

旅館の裏手は路地と階段が巡る  





訪問日:2023.09.25 TOP 町並INDEX