筒石の郷愁風景

新潟県能生町【漁村】 地図 <糸魚川市>
町並度 7 非俗化度 9 −三階建木造家屋の密集する漁村−
 






木造三階建を中心に密集漁村集落の展開する筒石の町並

 

 北陸本線の直江津と糸魚川の間に筒石という駅がある。全国でも珍しいトンネルの中にホームのある駅で、客は階段を下って闇の中から列車に乗る。
 それはこの地区の海岸線が嶮しいことを示している。波打際に線路を敷けば日本海の荒波を受け兼ねないし、中途半端なところを通せば崖崩れの危険もある。そこでこの付近の線路はトンネルの連続となっており、平地の全く無いこの筒石ではその中に駅を設けるほか方法がなかったのである。
 このような海岸線から山が切り立った地形であるため、筒石の町並もそれに対応した独特の佇まいであった。家々は間口が非常に狭い代りに多くが三階建てであり、潮気のきつい季節風の対策か軒並板張りの外壁にほぼ統一される。そして、ごく一部を除いて町は細い路地一本にしがみつくように細長く伸び、すぐ背後は山地となる。前面はかつてすぐに荒波が打ち寄せていたのだろうが、現在は国道8号線とその外側の岸壁に守られ、建て込んだ集落内に入ると意外にも海の匂いは感じられない。
 家並は非常に高密度で、一度入り込むと横路地も少なく、約500mに渡ってひたすら木造多層階建の家々が連続する。海岸線に沿って曲線を描くその街路からの家並はなかなか壮観な風景である。平地がなく、集落が立地するには過酷な地形である。逆に必然性も感じさせる。
 江戸期から家並は形成されていたが当時から水田は極めて少なく、年貢も米でなく畑の作物で代用されていた。生業は専ら漁業であり、近海で捕獲された鱈は幕府への献上品ともされていた。現在見ても、貧しい寒漁村の家並ではない。中には二階部分に木製の手摺を付けた繁華な構えも見られ、つくりは全体的にしっかりしている。或る家では屋根の上に物干し場を設けていた。この町の土地利用の厳しさがわかる。しかし小さな商店もあり、また理髪店もあるなど、この町だけでも一通りのも生活が成立つようである。
 見たところ無住の家は見当たらなかった。歩いていても住んでいる方の姿をよく眼にした。ここで許されるのはこうした建て方しかない。少しずつ更新はされるだろうが、すぐには消失しないであろう根強さがこの家並風景に感じられた。活気の感じられる漁師町である。
 
  
 





訪問日:2007.05.05 TOP 町並INDEX