菟田野の郷愁風景

奈良県菟田野町【在郷町】 地図 <宇陀市>
町並度 6 非俗化度 10  −伊勢街道・伊勢南街道を結ぶ街路上に発達した在郷町−




菟田野町古市場の町並


 菟田野町は盆地と丘陵が交錯する宇陀地区の中央にあり、北は榛原町、西は大宇陀町、東から南にかけては吉野郡東吉野村に接している。伊勢本街道と伊勢南街道(和歌山街道)とを連絡する街路が町を縦断し、中心部の古市場はその道筋に開けた街村だ。






 中世より「うたの市」と呼ばれ、街道沿いに家々が連なり市が設けられ、商品の売買が行われていた記録が残っている。しかしこの地が古市場と呼ばれているのは、江戸初期の元禄の頃になって大宇陀に松山町が成立し、宇陀地方の中心がそちらに移った折に多くの商人がここを離れてしまったことによるものといわれる。
 大宇陀に賑わいを奪い取られたとはいえ、国道により旧街道が潰されなかったことも幸いして古い町並がその姿をよく留めていた。江戸期に建てられたと思われるものは少なく、また間口の広い圧倒的な財力を有した商家というのも大宇陀に比べるとさすがに少ないようではある。しかし、緩やかにカーブする昔ながらの幅員の街路に軒を連ねる古い家々は町並歩きの楽しさを感じさせてくれる。
 古市場村は江戸期のほとんどを幕府直轄領として経過した。耕地に恵まれ茶や柿、山椒、漆、煙草などが多く産され、また街道の往来の多さもあり吉野葛など近隣の産物も含め商いをする家々が建ちならび在郷商業街としての賑わいが続いた。また、明治の頃からは水銀の原料であった辰砂と呼ばれる鉱物の採掘など新たな産業も得て、古市場は賑わいを呈した。
 近年重伝建指定を受けた大宇陀の影に隠れ、全く知られることの無いこの古市場の町並であるが、ここに残る幾つかの旧家はそれに値するものであり、また家々の連なりも古い町並というに遜色ない姿を残している。重伝建級とまでは言えなくとも、自治体単位で認識され保存活動を行う価値のある町並である。




訪問日:2008.07.20 TOP 町並INDEX