宇津ノ谷の郷愁風景

静岡市駿河区<街道集落> 地図 
 町並度 6 非俗化度 3  −近代交通の蔭に隠れ細々と息づく街道町−











宇津ノ谷の町並
 
 
 宇津ノ谷地区は静岡市域西端部の山裾、国道1号線沿いにある。読み方は東国式にウツノヤと発音する。
 中世から宇津谷郷として集落が発達し、東海道に面していたことから人通りも多く、東に接する麻利子(丸子)の地には早くから宿駅が設けられていた。古くは付近は寂しい所であったらしく、『伊勢物語』の中に「行き行きて駿河の国に至りぬ。宇津の山に至りて、わが入らむとする道は、いと暗う細きに、つたかえでは茂り、物心ぼそく、すゞろなるめを見ることと思ふに、修行者あひたり」との記述がある。標高は僅か170mほどの峠ともつかぬような小山の鞍部も、当時の旅人にとっては心細い隘路だったのであろう。
 宿場町が隣接し、宇津谷は旅籠などの宿泊施設は大きく発展し得なかったが、そのかわり西に峠を控えていたことから休憩施設が多く設けられていた。宿場の機能はなかったものの、慶長19年家康は大坂の陣に際してここに陣屋を置くなど歴史の舞台となってきた。
 街道は西に向って上り勾配を示しており、坂道に展開する集落だ。伝統的な建物の純度は高く見応えはするが、保存のための手が大きく加えられた姿であり、また街路も人工的なインターロッキング舗装が施され、見せ物の町並との印象を抱かせる。
 しかしながらこの風景は地元の方々の必死の保存活動の結果であり、評価すべきものであろう。住民の方々が独自に協議会を結成し、市の援助を得て旧家の改修が行われている。一部では客を迎え入れる施設も見られるが大半は地元の方が普通に生活されており、客観的な眼で訪ねれば往時の街道集落の賑わいを十二分に家並から想像することが可能だ。
 すぐ近くに大幹線・国道1号線バイパスが通っている。沿道からは低い山を一つ隔てた谷間に展開し、国道沿いとは打って変わり静謐が支配している。旧東海道沿いの峠の位置には、明治時代に建設されたトンネルが今でも現役だそうで、わが国最初の有料トンネルであった。その後二代にわたりトンネルは位置を変え、今ではバイパスの厖大な交通量を受入れるものとなっている。
 
 


訪問日:2009.01.03 TOP 町並INDEX