皆月の郷愁風景

石川県門前町【漁村】 地図 <輪島市>
町並度 6 非俗化度 9 −外浦の厳しい環境下に稀有な町家の集積があった−
 


 能登半島の北西海岸は険しい地形で平地がほとんどなく、わずかに開けたところに集落が散在しているのみで、荒々しい奥能登の表情を見ることが出来る。
 ここで紹介する皆月集落はそんな中で比較的平坦な土地が開け、漁村の町並が展開している。江戸時代から刺鯖・鯖背腹などが特産品とされ、明治の頃の文書によると、船乗に従事する者が多くを占め、幕末頃には水夫が80人も存在していたという。また輪島さらに大阪などへ出、大型船の船長に就任する者もあった。
 厳しい地形・気候条件のもとにあるこの集落だが、このように漁業を基本とした産業が基盤にあったこともあるのだろう、家々の佇まいは寒漁村といったものではなく、裕福さに裏づけされたような見応えのあるものであった。共通するのは渋い板張りの家屋で、それ自体は家並に素寒貧とした印象を与えるものであるが、各家の造りは町家風のものが一定の割合を占める。中には袖壁や格子を持つものもあった。これらは廻船業を営み潤っていた家なのだろうか。
 妻入りのものも一部あるが多くは平入りで、都市型の軒を接した家並となっているのは街道集落をも彷彿とさせるものがあり、山道を辿って着いた海岸の集落とは思えない印象を与える。この町並は不便さと、それに反する繁栄の歴史が絶妙なバランスを保っている結果であると思う。
 保存に対して意識されているような色は全く感じられないが、その価値も見出せる町並だ。
 













訪問日:2013.05.03 TOP 町並INDEX