養父市場の郷愁風景

兵庫県養父町<商業町・宿場町> 地図 <養父市>
町並度 5 非俗化度 9 −牛市で栄えた街道集落−









土塀に囲まれた中庭を持つ旧家も見られる養父市場の町並


 養父町は円山川の中流域に開ける町である。
 役場は支流の大屋川を少し遡った位置にあり、国道9号線が通過している一方で、円山川に沿っては旧豊岡街道という古い道があり、養父市場という曰く有り気な町があるので訪ねてみた。
 山陰本線の養父駅周辺は寂しい所で、周囲に人家は少ない。駅前を旧山陰道の枝道であった豊岡街道に沿って北上していくと、川沿いにわずかな平地が開け、趣ある民家が街路の両端に展開し始める。ここが養父市場の町並である。
 土塀を配した中に中庭を構えた屋敷型の旧家もあれば、隣同士の軒が接する連続性の高い家並も見られる。そしてこの町並を引締めているのが街路の両側に流れる水路で、家々には池が設けられており、その水を引入れ鯉が飼われている。この町は錦鯉が有名なのだそうだ。
 そのためもあってか、町には落着いた風格を感じさせるような空気が漂っていて、小さなスーパーマーケット以外はほとんど商店も見当らず、静けさが支配していた。家々は平入りが基本だが一部で妻入りも見られ、いずれも但馬独特の黒い瓦で被われている。
 市場の名が示すとおり、ここは古くから大きな牛市が開かれていた。但馬牛の取引の中心地として中世からの伝統があり、博労と呼ばれた牛の取引をする者が嘉永6(1629)年に既に63軒を数えていた。当初は養父神社の祭礼日のみに境内で開かれていたというこの牛市は次第に拡大し、町中での取引のみならず摂津天王寺(現大阪市天王寺区)、和泉や紀伊地方にまで行商に赴いていた記録があり、但馬牛の名を広く知らしめた。また町を貫く豊岡街道の宿駅としての役割もあり、この街道を参勤交代時に利用していた出石藩主の本陣も設けられていたという。円山川の舟運も盛んであったが、養父市場では舟運家業免許を持つ船がなかったこともあり、発達を見なかった。交通の面では街道町だったようだ。
 国道9号線から外れ、この養父市場の周辺だけが円山川沿岸では幹線道路から見放されている格好だ。そうした偶然性からかつての街道の風景がほぼ往時のまま残っている。
 
 







訪問日:2006.05.27 TOP 町並INDEX