谷地の郷愁風景

山形県河北町<商業町> 地図
町並度 5 非俗化度 7 −最上紅花の中心地であった−




谷地の「雛市通り」の町並。瓦を載せた厳かな薬医門と土蔵が連続する。




雛市通りの町並 公開されている堀米家


 紅花は山形県のシンボルともいえる花である。近年では植物油の原料として知られるが、古くは染料や化粧品の原料として、金一匁に紅花一匁とも言われるほど非常に価値の高いものであった。中でも最上紅花と呼ばれるこの地方のものが最高級品とされた。阿波の藍とならび出羽の紅花は、江戸期における代表的な高級染料であった。
 寒暖の変化の激しい盆地の気候も紅花栽培に適合していたからでもあろう。「月山の見えるところには紅花を作れ」という諺もあり、最上川の川運を経て酒田から西廻り航路で日本海、瀬戸内海を通り上方へ運ばれ、京の都文化を彩っていた。
 河北町もそのような紅花栽培で一時期の繁栄を極めた町であった。最上川の流れに沿い、月山の優麗な姿も望める位置にある。
 町の中心である谷地地区では現在に至ってもその名残が見られる。板塀に囲まれた屋敷、通りに接しては漆喰に塗りごめられた土蔵が連なり、厳かな屋根つきの薬医門を従える。そのような商家が3〜4軒連続している。敷地の広さからも商人としての裕福さを証明していた。この界隈はひな市通りと呼ばれ、旧暦3月2・3日には各旧家の雛人形が展示され、市が開かれる。「日本の道百選」にも選定されている通りである。
 連続した町並はこの付近だけだが格調高い歩く価値のある通りであった。また南側の商店街の外れには、造り酒屋朝日川酒造が、その伝統的な屋敷構えを頑なに現在に受継いでいた。
 町の中心から少し西に外れたところに、紅花資料館として公開されている旧堀米家がある。大庄屋を営んでいたという旧家で、塀で四囲を囲んだ上に堀を巡らせて敵の侵入を防ぐ「環濠屋敷」の姿を今に留めている。こうした構えは戦の多い近畿地方では多く見ることが出来るが、この地域では大変珍しいものである。西廻り航路で上方文化が流入してきていたことを示しているようであった。幕府の命で武者組織も組成されたといわれるほどの大豪邸で、彼らは有事での徴兵以外は地域の治安維持を担当、そして堀米家自身の防衛にあたっていた。当時の武者蔵をはじめ無数の土蔵建築が敷地内に今も保存されている。




朝日川酒造付近の町並

訪問日:2005.05.22 TOP 町並INDEX