谷中の郷愁風景

東京都台東区【寺町】 地図(谷中一丁目付近を示す) 
 
町並度 5 非俗化度 5  −寺と路地が特徴的な都内の非戦災地区−





 上野駅の西側は上野公園が都内随一の緑地帯を広げ、鶯谷駅から日暮里駅にかけての線路の西側は谷中墓地で、歴史的人物や著名人の墓も多い。西からは武蔵野台地の一部である本郷台地が迫る。谷中はそれらに囲まれた文字通りの谷の中の町で、周囲の都市の雑踏からはやや距離感を感じる静かな一帯である。
谷中六丁目の町並





谷中四丁目(三崎坂沿い)の町並 寺のある風景は谷中の代名詞といえる
 
 
 この付近は東京大空襲時などにも消失を免れている。谷中墓地を隔てた東日暮里界隈は潰滅したのに、この墓地が障壁となって奇跡的にも戦前の面影も所々に残る地区として、注目度も高い。高速道路や幹線道路がこの町を横切っていないのも、静かで落着いた町の雰囲気が保たれている要因だろう。土地は武蔵野台地の末端で所々起伏があり、昔ながらの道は地形に従っていたのだろうか、小路に主だった秩序が感じられず路地が交錯する。
 谷中にはまた寺が非常に多く、町並景観を特徴付けるものとなっている。都区分地図を見るとわずか1km四方の谷中町内に約50箇所も寺の記号が見える。まさに寺町だ。大火のあった明暦年間(17世紀中盤)、復興計画によりこの一帯に日本橋や神田などから寺院が移転したためという。400年余りを経てそれらもしっかりと谷中の地に根を降ろし、生活の風景の一つとなっているようだ。私が探訪しているときも50名を超える若い修行僧が境内から出てきて、路地を歩いていく風景に出会った。寺抜きにして語れない町である。
 そしてその寺院自ら古い町並を形成していた。或るものは瓦屋根を乗せた厳かな門を構え、また他のものは土塀が連続した風情ある路地を演出している。建物もビル建築は少なく、昔ながらの住宅も多く残っており、さらに敷地に占める寺の割合も多いため、他の周辺の町に比べ空が広く感じられる。歩いていると東京の都心近くにいるという意識が薄らいでしまうような町並である。
 寺以外にも、戦災を受けていないことを証明する伝統的な出桁造りのがっちりとした木造建築が至る所に残り、さすがに連続した箇所は少なかったが、下町の代表のように呼ばれるに充分な趣を感じさせた。
 
 


観音寺横には築地塀の路地が巡る 谷中六丁目の路地




(荒川区)西日暮里三丁目の町並 谷中一丁目(言問通り)の町並

訪問日:2006.11.05 TOP 町並INDEX