安田の郷愁風景

高知県安田町【在郷町・漁村地図
 町並度 5 非俗化度 9 −商家と造り酒屋の織成す町並−

             





安田の町並
 
 
安田町は、海岸線の出入りの少ない高知県東部の海岸線に接している。とはいえ町域は安田川流域に内陸に細長く伸びる形をしており、国道55号線を走るといつの間にか通過してしまうような町である。
 この町は古くは水主集落であり、その後廻船問屋も現れ商港として発達していた。東土佐の各港に共通していたのが材木や薪などの輸出で、それは非常に雨の多い山間部から豊富で良質な木材が入手できたからであろう。畿内など近辺に大消費地を控え需要が多かったが、濫伐や商人の買い叩きなどにより廃れ、江戸中期以降は主に漁村として機能してきた。
 町はかつては海岸に直接面していたものと思われるが、海岸沿いに津波対策か高い防潮堤が築かれ、そこを国道が通っている。一筋内側の旧道は古い町らしい佇まいを残しており、安田川右岸にぶつかる手前で直角に折れ(正確には国道から伸びてきた道と交差し)、今度は川沿いに遡る。この道筋が古くからの町なのだろう。
 まず眼につくのが交差点付近に残る水切瓦の連続する風景である。国道に平行した街路ともども、家並の外観は単なる漁村というよりある程度商取引が近年になっても盛んに行われ、繁栄したような色が伺える。歴史を調べるとこの町には廻船商人が酒造家として生き残り、幕末には六軒もの造り酒屋が存在していた。これは後背地である魚梁瀬や馬路などが林業の盛んな土地であり、需要が多かったこともその理由とされている。土佐東街道も通過し、山間部や近海の物資が集まり取引されていたようだ。
 現在でも町の規模の割に造り酒屋の多いのに驚く。川沿いに伸びる町並は古い姿を留めているが、酒造家の建物がその風景に大きく貢献している。この玉の井酒造は表通りに面して数棟の酒蔵や平入りの木造社屋を構え、裏手にも水切瓦を備えた大柄な土蔵を従えている。酒造家自らが古い町並を演出していた。
 小さいながら風格のある佇まいを見せてくれる町である。
 
 




安田川沿いに残る古い町並は造り酒屋を中心に展開していた






訪問日:2007.08.15 TOP 町並INDEX