余市の郷愁風景

北海道余市町【港町・漁村】 地図
 町並度 5 非俗化度 6 −鰊漁場を発端に様々な産業で栄えた町−
 




 小樽市の西に接する余市町は積丹半島への入口にあたり、郡部としてはやや大きな市街地を持っている。林檎などの果樹栽培の他、ニッカウヰスキー創業の町として知られている。創業者竹鶴政孝は広島県竹原の出身で、酒造一家に生れた氏はサントリー山崎工場(京都府)長時代、気候風土がスコッチウィスキーの故郷スコットランドに似ていることからこの地を選んだのだそうである。 
ニッカウヰスキー北海道工場





ニッカウヰスキー北海道工場周辺の町並


 
 函館本線の駅前を出てすぐ、その工場は偉大な存在感を伴って視界に入ってくる。建物は昭和初期の操業当初のもので、スコットランドの古城をイメージしたともいわれるその構えは文化遺産とも言うべき価値を感じさせる。敷地内に入らずとも石積を多用した建物群は周囲の町並景観に与える影響も大きく、この町のランドマークとなっている。
 この町の市街地は大きく二手に分かれており、今触れた駅前付近と余市川を隔てた港町・沢町などの地区である。その間にはこの町の歴史を象徴する幾つかの史蹟を見ることが出来る。鰊漁場としての遺構である。
 余市の歴史は北海道としては古い方で、江戸初期には松前藩により先住アイヌ人との交流が試みられ、「場所」と呼ばれる交易所が置かれていた。後に運上屋と呼ばれ漁業基地ともなり、中でも近海で豊富に水揚される鰊はこの町の発展に大きく寄与したものであった。その遺構としてあるのが両市街地の中間、海岸沿いに残る旧福原漁場である。鰊番屋は北海道日本海側に幾つか残っているが、これは番屋のみならず味噌蔵、文書蔵、網蔵などが原型を保って保存されている稀少度の高いものだ。あいにく冬は建物内部が公開されていないので外観だけの見学となったが、鰊漁に関する貴重な資料が保存展示されている。
 その北側に開けるもう一つの市街地は、近代的な水産試験場が象徴する漁業の中心のようであった。余市駅に近い方が鉄道開通後やニッカウヰスキーの企業城下町として栄えた後発的な市街地で、こちらが漁村を基礎とした歴史の古い町ではないかと推測できる。
 街路は碁盤目調に整えられ計画性を感じさせる。そんな中で石積の美しさを感じさせる蔵、トタン葺ではあるが出桁造りの町家風の建物、看板建築など古い町並を思わせる佇まいが残っていた。
 鰊は戦後になると急激にその数を減らし、幻の魚となってしまった。港町界隈からは緩やかな海岸線を通して大きな岩塊のようなシリパ岬を望む風景は独特のもので、雪景色もあって北の海辺の町といった雰囲気が濃厚に感じられた。




富沢町の町並 沢町の町並




鰊番屋などが保存される旧福原漁場

訪問日:2008.01.01 TOP 町並INDEX