吉野山の郷愁風景

奈良県吉野町【門前町】 地図
 
町並度 5 非俗化度 2  −尾根沿いに街村的に展開する門前集落−



 
 吉野というと桜の名所というのがまず想起されるところである。全山十万本ともいわれるこの風景が生み出されたのは、古来から吉野山一帯では桜は神木として伐採を許されず、平安期には苗木の寄進も受け植え込まれていったことによる。
 近鉄吉野線の終点からロープウェイを経て辿り着く吉野山の中心は金峰山寺蔵王堂の門前町で、尾根沿いに細長く続く独特の集落形態となっている。
 
 金峰山寺蔵王堂  
 

 
吉野山は修験道の総本山であり、大峰山の前衛としても位置付けられ中世には武装兵力をも有し、地形を利用して要害を築いていた。
 江戸時代は一時幕府領だった時代もあるが大半は吉野蔵王領という独自の統治領下であり、金峰山寺に与えられた朱印地(幕府により寺社の領有地として承認された土地)であった。
 門前町は長い尾根上の街村を三つに区切り、勝手神社より山上側を六ヶ院、勝手神社から蔵王堂までを中町、それより麓側を野際と呼ばれていた。さらにその中を更に関屋町・市場町など多くの町に分けていた。市場町は今の勝手神社付近で、蔵王堂までの中町と呼ばれた一帯は平坦地でもあり、今でも多くの旅館・土産物屋などが営業されており、門前町の中心をなしている。建物も町家・商家風の伝統的な外観を残したものも多く、古い町並を形成している。名産葛切り、柿の葉寿司などを売る老舗も多い。
 野際地区は坂道に展開し、蔵王堂を拝みながら店舗が並ぶ門前町らしい街区で、ロープウェイ乗り場近くに黒門がある。この門は金峰山寺の総門で、吉野山に上る人々にとって関所の役割を持っていたという。また坂の途中には国重文に指定された銅製の鳥居がある。
 江戸期までは軍事的・政治的権力を帯びていた吉野山一帯も、明治以降周囲からの交通の便が良くなるにつれ桜の名所としての注目度が高まっていった。現在では関西のみならず全国的にも有名で見頃には多くの花見客で混雑する。
 桜や寺院には注目されても、門前の町並そのものは余り着目されることはないと思うが、このように質量ともに古い町並として十分なものが残されている。
  
 



 
 吉野山(旧中町)の町並
 

 

 吉野山(旧中町)の町並
 

 

吉野山(旧野際)の町並 

訪問日:2020.09.20 TOP 町並INDEX