湯平の郷愁風景

大分県湯布院町【温泉街】 地図 <由布市>
町並度 5 非俗化度 4 −石畳と坂道の素朴な温泉街−

大分県は世界に知られる別府をはじめとして有名な温泉地がとりわけ多い地域で、近年では内陸部の湯布院温泉が盛んにメディアに紹介されるなど、大分といえば温泉というイメージが強く世間一般の知る所かもしれない。熊本県境近くの久住高原の周辺にも、地図を見ると小さな温泉が驚くほど沢山ある。
 近年のブームともいえる温泉人気の中で、この湯平温泉は湯治場風の原型的温泉街が展開するところとして、次第に稀少性の高まりつつある町並の一つとして訪ねてみた。



 






 湯布院からも程近いこの湯平は、久住高原から続く山地の入口にあたり標高約600mの位置にある。狭い谷間に流れる急流に沿って、木造の温泉旅館が所狭しと建ちならぶ町並である。平地が非常に狭いため、中心となる街路でも軽自動車がやっと通れるほどの幅で、しかもかなりの急勾配をなしている。路面は石畳による舗装がなされていて、坂道とともにこの町を象徴する風景を展開させている。
 この石畳はしかし、観光客に迎合した最近のものではなく、江戸期から継がれるものといわれる。延享4(1747)年の記録では既に他地域からの湯治客があったと記され、年間500人余りを受入れていたという。藩主や武家の入湯も多かったといわれる。当時についてその記録は、宿屋10軒、その内8軒は20人前後は宿泊可能な旅籠であったと記す。
 古くは猿が飲泉していた姿から発見されたとも伝えられ、胃腸病に優れた効果を持つとされる弱食塩泉だ。鎌倉期には既に温泉場として人々に開かれていたときく。
 旅館はほとんどが木造の古びた外観で、狭い土地のため三階建となっているものも多い。路地に接して開放的な造りの土産物屋など、一昔前の温泉地といった雰囲気が濃厚に感じられる。
 ここには共同浴場が何ヶ所も設けられている。いずれも管理者がなく、入湯者は入口にある小さな箱に賽銭のように100円を投入するだけで、気軽に入力することが出来る。その一つ、川の流れに程近い「中央温泉」に入ってみた。簡素な扉を開けると脱衣所と浴場の境がなく、浴槽の傍らの木棚の前で脱衣するようになっている。石造の浴槽は湯垢その他も付着し、決して見た目には清潔ではなかったが、時代が何十年も遡ったような、素朴で長閑な浴場であった。
 








右下の屋根が共同浴場「中央温泉」



訪問日:2006.08.15 TOP 町並INDEX