座光寺の郷愁風景

長野県飯田市【門前町・街道集落】 地図 
 
町並度 5 非俗化度 8
 −元善光寺の門前 伊那街道沿いに見応えのある商家が見られる−
 天竜川の河岸段丘上に展開する飯田の市街地は、南側が鋭い崖になり下方の谷を見下ろす大規模な田切地形となっており、町の中心部も西から東へ傾斜し、坂の多い町である。伊那谷は段丘や田切地形などが交錯し、平坦地に乏しく近世以降の交通上障害となっていた。
 飯田線は、この勾配差を避けようと松川の谷を上流側に迂回し、大変な遠回りを経て谷底に降りる線形をとっている。




伊那街道に沿って展開する座光寺の町並
 

 しかし、古くから開かれた旧伊那街道は天竜川右岸段丘上に巧みに造られたのがよくわかる。県道15号線がほぼそのルートを踏襲しており、若干の起伏はあるが車で走るにも実に快適な道である。天竜川の本流とも距離を持ち、水害の影響が少ないことから選ばれたのだろう。
 城下町飯田と北に接する市田宿との間には幾つかの古い町並を従えた集落がある。代表的なものが元善光寺の門前町的な役割のあった座光寺集落だ。ここは律令制下の麻績(おみ)郷がこの付近であったと比定され、街道上の市田宿往還の荷を受け持つなどの街道稼ぎの補佐役などを請け負っていたが、元善光寺の門前町としてにぎわっていた所である。善光寺を参って元善光寺を参らぬのは片参りといわれ、かつては望ましくないものとされていた。庶民の道として善光寺や伊勢参りの旅人が多く通ったこの伊那街道のこと、この元善光寺を訪れる客も相当な数に上ったに違いない。
 しかし現在この街道沿いにみられる町並は門前町の風情ではない。塀に囲まれた敷地の広い邸宅、瓦屋根の厳かな門を従えた屋敷などが目立ち、一見豪農集落風である。その印象を強めるのは屋根の裾野の広い妻入りの「本棟造り」の旧家が見られることだろう。その分布の中心は伊那谷の北端から松本盆地南部にかけてだが、飯田付近から北の地域でも比較的よく見られ、町並風景に強い印象を抱かせるものである。
 
 




 
 街道集落であることは間違いないがその出で立ちはそれらしくない外観である。飯田城下に米や炭、薪をはじめ縄、紙などの品々をおさめ、城下を南に控えた在郷商業町的な役割もあったかもしれない。それらで特権を得、富をなした豪農が今にその姿を残しているのかもしれない。今一つ不明な部分も多いが元善光寺に近い位置にあるとして、門前町として紹介しておく。


 


上郷黒田の味噌醸造の老舗

訪問日:2011.07.18 TOP 町並INDEX