日奈久温泉の郷愁風景

熊本県八代市<温泉町> 地図
 
町並度 5 非俗化度 6 −藩営の温泉場として繁栄を見た−




木造三階建の旅館も多く見られる日奈久温泉街


 八代市の南部にある日奈久温泉は熊本県最古の温泉地とされている。近年近くに高速道のインターチェンジが設けられたが、温泉街は最近の温泉ブームに便乗したような施設は全くなく、一時代前の温泉地の風情を存分に残している。


 町の背後には山地が迫り平地はほとんどない。したがってこの温泉場は狭い土地にひしめくように旅館、一般の民家が建ちならび、密度の高い町並となっている。木造三階建の威容を誇る旅館「金波楼」を中心として、その外縁に中規模旅館の並ぶ温泉街が連なる。また山寄りに旧薩摩街道が縦断しており、商家の家並が見られる。日奈久の古い町並はこの二段構成となっている。
 応永16(1409)年に海中に湧出する温泉を発見したのが始まりといわれ、後に薩摩街道筋にあたり人の往来が多かったことからも温泉場としての発展を見、旅人が多く利用した。
 熊本藩はここを藩営とし、海岸部にかけて新たな温泉も発見された。文化・文政年間(19世紀前半)の全国温泉番付では「前頭9枚目」に登場している。薩摩藩主の参勤交代時にも利用されていたといわれる。維新後も温泉町の賑わいは衰えず、明治33年当時の温泉宿の軒数約15軒。鉄道が開通するまでは近在の客を中心とした湯治場的な要素があったが、後に観光地としての賑わいを見せた。
 町並は近年になっての保養観光地として開発された中に、古くから湯治場として栄えていた雰囲気も残し、いい調和が保たれている。また旧薩摩街道沿いでは海鼠壁を施された蔵造りの旧家が町並景観をつくり出し、周囲には平入りの町家風建築が見られた。
 今回、13年ぶりの再訪となったが、温泉街の外縁部では空地となっている箇所が散見された。いずれも旅館だった場所だろうと思われる。また、前年発生した熊本地震の余波か客足は減っているようであり、やや寂しさを感じる探訪となった。歴史と格式ある温泉地であるだけに、活気を取り戻してほしいものである。




旧薩摩街道沿いに残る海鼠壁の美しい旧家




旧薩摩街道沿いの町並


※2017.06再訪問時撮影  旧ページ

訪問日:2004.05.02
2017.06.10再取材
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