辻の郷愁風景

徳島県井川町<産業町> 地図 <三好市>
 
町並度 5 非俗化度 9  −煙草産業で栄えた町並が素朴に残る−






辻の町並 左は船着場に向う街路沿いの風景


 徳島県の西部、吉野川の流域に開ける井川町は隣の池田と同様、煙草産業で栄えた町である。煙草栽培は17世紀に始まるとされ、元禄の頃には刻み煙草の専門業者が現れていた。中心の辻地区は南側の祖谷地区への入口にあたり、煙草をはじめ農林産物がここに集結した。吉野川の水運を利用した運搬が行われ、平田舟と呼ばれた舟で徳島へ送られた後全国に輸出され、煙草商人が多く台頭したところである。
 明治後期に煙草が専売化されると当地の煙草産業は終焉を迎え、また西隣の池田が鉄道交通の要衝として発展したこともあり、辻の町は衰退した。
 しかし一大産業町であった財の蓄積からか町の中心には伝統的な建物が少なからず展開している。町場は吉野川に沿うというよりも、その支流沿いに展開する谷口集落といった展開を示す。しかしそのことが、国道に潰されることなく古い町並が残される結果となったといえよう。
 旧町場内の街路は緩やかに曲線を描いており、次にどんな家並が現れるのか期待感を抱かせる。一部には間口の広い見応えのある御宅も残り、かつて煙草産業で繁栄した旧家ではと思わせる。またそこから吉野川の方向に向う小路に沿ってはうだつを持つ町家建築など、短い区間ながら濃厚な古い町並が残されている。この街路は川港に向う道で、国道を潜った先には船着場の跡の案内標識があった。港に近いところに有力な商家が立地していたからか。
 今回の再訪時、創業100年以上という旅館に泊り女将に色々話を聞く機会を得た。昔は池田より栄えていたとの話は前回訪問時にも地元の方に聞いたことで、町は町歩きのパンフレットを作成したり、ガイドツアーも計画したりと、ささやかながら町並・旧家を意識されて活動されているようであった。歩いていると改修中の古い建物を目にした。見ると登録有形文化財のプレートがあり、前回は土壁が崩れかけたようなうだつも丁寧に復元工事中であった。
 全体には空き地になった箇所も所々眼に付き、やや古い町並としての濃度が薄まったように感じられたため町並度は1ランク下げざるを得ないところであるが、保存地区ではないためよく残っている方ではと思う。これらの取組により、歯止めをかけていただきたいものだ。




辻の町並 
 



 
  かつての船着場付近
 


辻の旅館

2020.11再訪問時撮影    旧ページ
訪問日:2007.03.25
2020.11.22・23再訪問
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