街の風景

−上下・翁座−
 かつて大森の銀を運搬する幹線道路沿いに位置し、代官所をはじめ幕府の重要な機関もおかれた上下の町。町も大いに賑わい、現在の町の規模にはそぐわないほどの立派な商家をはじめとした建物が残る。そんな中で、大正14年に竣工した芝居小屋「翁座」がある。上下教会とともに町の象徴として息づいてきた。
 



翁座の正面
 
 
 表の看板は「映画実演」とあるが、もともとは歌舞伎などが上演され、内部の造りも花道や桟敷、2階席などを持ったものであった。戦後はしばらく映画館として使われたが、映画産業のかげりなどから昭和35年に閉館、以後は工場などとして利用されるに過ぎなかった。
 平成6年に現在の所有者により修理が行われ、花道や桟敷が復元され歌舞伎が行われていた頃の姿が再現されている。以来、日を定めて公開されている。
 
 
 
歌舞伎が上演されていたことを物語る回り舞台。舞台下には石積が残り手動で回していたという。
 舞台は廻り舞台となっており、舞台の下に人が入って動かしていたという。そのため空洞となっており(「奈落」と呼ばれる)、当時からの石積みも残り貴重である。
 また舞台の左袖には古い配電盤、天井を見上げると竹組(ここに登って紙吹雪などの演出を行っていたという)が残り劇場として現役の頃の裏方さんの活躍が偲ばれる。また、舞台の裏側は楽屋がその姿を留める。近年は一時アパートとしても利用されていたことがあるという。






舞台の真上には竹が組まれた足場(紙吹雪などの演出用)、旧式の配電盤が残り、舞台裏の仕組も原形を留めている。




二階部分。屋久杉の天井、擬宝珠高欄と呼ばれる木製の手摺が特徴的だ。





 
 2階に上ると、舞台を見下ろすこれまた荘厳ともいえる光景が広がる。ドーム型に加工された天井は贅沢にも屋久杉が使われ、数箇所に開口部を設けるなど音響効果を高めるための工夫がなされている。また手摺も非常に凝ったもので、京都・南座を模した「擬宝珠高欄」と呼ばれるものだ。特にコーナー箇所はR加工されており、これは火熱の力で曲げたといわれている。
 聞く所によると、消防法の規制などによりなかなか公開するのが難しかったというが、最近ようやく設備を整え、公開できるようになったという。
 建物としては重要文化財級の価値があると思われる。出来ることならイベント時などの限定公開ではなく、常時公開していただければ嬉しい。




舞台裏にあたる正面から向って右側部分は楽屋が往時を留めていた。


2016年10月16日撮影

 路地裏トップへ