近代洋風建築のある風景(28)

−旧広島地方気象台− 

 市街南部の江波地区にある旧広島地方気象台は昭和62年まで現役の気象台として使われていた建物である。昭和9(1934)年に県立の測候所として建築されたもので、戦前のRC構造物としては末期にあたる。以後は太平洋戦争の需要のため鉄(鉄筋)が使えなくなったためである。
 比較的シンプルな外観の建物であるが、細部に眼を向けると内外装ともに意匠へのこだわり、人件費より材料費の方が高かった時代に人手をかけて丁寧に造られた建物であることがわかる。

 現在は江波山気象館として一般公開されており、2018年11月11日に非公開部分を含めた見学会が行われた。
 そのときに撮影した画像とともに建物を紹介する。 




正面全景。左は後に増築された別館。 窓の下に張出したテラス状の部分や旗竿受けもモダンなデザインである。




玄関の庇を1本の柱だけで支持する構造というのはかなり奇抜かつ斬新なことだったに違いない。その柱も逆円錐形を積み重ねたような独特の外観を示している。 建物の裏側を望む。中央の突出部は観測塔。手前の小さな建物はトイレであるが、それも意匠は本館に合わせたものか。






観測塔にも個性的な意匠がある。屋上に立上がった壁にうがたれたアーチ状の穴は建物の防水という観点からはタブーといえる。時代を経て、現在は建物内に漏水箇所も生じているという。また片持ち式の階段も珍しい。下部を丸く仕上げてあるのも特徴だ。






入口を内部から見た様子。扉の上部と受付窓にはステンドグラスが用いられている。




二階へ向かう階段。手摺は「人造石研出し仕上げ」という工法(モルタルに石の粒を混ぜて固めた後に研ぎ出したもの)で造られたものなのだそうだ。非常に手間がかかっている。この階段では結婚式の前撮りが行われることがあるとのこと。




館内の壁は曲線が多く用いられ暖かい雰囲気を感じる




建物は小高い丘の上にあるため、原子爆弾投下時に爆風に晒された。一部屋だけそのときの痕跡を残している部屋がある。壁にガラス片が刺さり、窓枠が曲っている。

  
※説明文等は見学会時配布の資料を参照しています。

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