近代洋風建築のある風景(29)

−旧陸軍被覆支廠− 


 
旧陸軍被覆支廠は広島市街地中心からは少し南東に外れた位置にあり、また表通りからやや奥まった位置にあることもあって知名度は高いとは言えない。しかし大柄な煉瓦壁の建物が3棟縦列に並んでいることで敷地外の路地からも非常に迫力を感じることができる。
 被覆廠とは軍服・軍靴などの制服や装備の製造・貯蔵を行っていた施設で、東京本廠と大阪・広島に支廠が置かれた。広島の被覆支廠が設置されたのは、宇品港に陸軍運輸船を統括する部署があり、港とは宇品線とで結ばれていて大陸への物資の積み出しに便利だったからとされている。他の本廠・支廠は現存しないためここが唯一残る被覆廠の建物である。

 
この建物は外見上は煉瓦造のようにみえて実際はRC造であり、外壁以外の柱や梁、床は鉄筋コンクリートとなっている。竣工は1913(大正2)年と云われ、RC造の建物としてはかなり初期に値するものとして注目される。RC構造が多用されるようになるのは関東大震災後に耐震性への関心が高まったことにより普及しだしたもので、それまではかなり高価で鉄筋などは海外から移入したものが使われていたという。
 

 
延々と煉瓦壁と鉄扉の連なる迫力ある路地風景


この建物群は県(一部は国)が管理しているが、活用法を模索しながらもなかなか方向性が定まらない。RC部分の強度調査が行われたがかなり劣化していると判定され、また煉瓦との複合という特殊な構造であり補強にかなりの費用や特殊技術が必要であることがその大きな理由だろう。一時は耐震補強や見学施設を整備し、2020年度には新たな姿が見られるだろうとの新聞記事もあったが、以後それに向けての具体的な動きは全く見られない。
 しかし煉瓦壁がこれだけ大規模に連なる建物群という外見上の価値だけでも捨てがたいものがあり、それに建築物として、そして歴史面での貴重性が加味された建物であり、費用と時間をかけてでも何とか残してほしいものと思う。
 今回、市内随所で普段公開されない建物を中心にガイドツアーが行われる催しがあり、その機会を利用して訪ねた。安全性が確保できないということで内部の見学は残念ながら不可能とのことで、外側からだけの見学となった。これまで何度かは見ているものの、解説付きでの見学は初めてであり、気づかなかった点、驚いた点も少なからずあった。
 




位置によっては住宅地に忽然とといった雰囲気もある 敷地内の風景 L字型に棟が並び奥行きを感じさせる一角もある




外壁は柱部分にも煉瓦が巻かれているが屋根の小屋組にRC部分が見え 屋根は瓦を葺いている 妻部は壁が高く立ち上り迫力を感じる




扉上部はアーチ状に煉瓦を積んで補強してあるのがわかる 西向きの外壁は原爆の爆風を受け曲がった状態で残されている



鉄扉内の戸は横引き式だという 
戸袋が必要なため煉瓦壁でこのような戸は珍しいそうだ





扉の隙間から内部が覗ける個所もあり RC造りであることがわかる 階段も見える



  
※説明文等はガイドツアー時配布の資料を参照しています。

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