第17号 (2023.11.11発行)

白市町家めぐり

2023.10.29

関連ページ  白市の郷愁風景

 
 
 
東広島市の郊外にある高屋町白市地区は、古くは中世に城が構えられ、その後交通の要衝となり商業が集積、特に牛馬市が盛んに行われ賑わいを見せた所で、当時を思わせる商家・町家が古い町並を形成している。重要文化財として公開されている旧木原家をはじめ登録有形文化財の建物も複数ある。
 この町並を巡っては時折地元紙に話題が載り、白市交流会館という施設も造られ、どのように活用されるか注目していたところ、9月に発足したばかりという「白市町家保存協会」という団体の主催で、通常非公開の物を含む文化財の町家を巡り、講演会を行うというイベントが開催されることを知り早速申込んだ。木原家以外にも多くの貴重な建物があるが、何とか見学する機会がないかと思っていたので願ってもない催しである。
 町家探訪の様子を中心に、ここで紹介したい。


 白市町家保存会HP


 
 白市交流会館(この画像は2016・8撮影)
■木原家住宅(1665頃) 〖重要文化財〗 
 木原家は現存する白市地区を代表する旧家で、残された鬼瓦に寛文5年の文字が見られることから、我が国で6番目に古い町家建築と云われている。今回探訪した建物では唯一一般公開されている。
 竹原の塩田の経営、造り酒屋その他現在でいう総合商社のように様々な商売を行っていた。
 外観上はつし二階形式だが二階部正面には窓がない。また賀茂台地系の赤瓦分布圏の中心付近に位置しながら、渋い銀色の本瓦と桟瓦が用いられているのも特徴的だ。
 この木原家は何度か訪ねたことがあるが案内付きは二度目くらいで、構造上二階になっている部分は一部のみであることなど改めて江戸初期の貴重な構造が残されていることがわかり、また二階部分の一部は敵が攻めてきた時に主人が隠れ、裏に逃げられる仕組になっていたなど、興味深い話を聞くこともできた。
 

 ※こちらにも記事有→「重要文化財の建物 木原家住宅」 



 
 
この地区では少ない銀色の瓦 窓のない二階部などが特徴の木原家  




座敷より玄関方向を見る  上段の間のようになっている座敷
 



 
 奥の座敷には非常時に主人が二階に退避できる梯子(格納式)がある 二階の隠し部屋 裏の小窓から外に出ることが出来る
 

■保手濱家住宅(1884頃) 
〖登録有形文化財〗 
 明治前期に建てられ、雑貨屋・駄菓子屋を営んでいた家で、木原家に向う坂道の途中に位置している。外観で特徴なのが軒庇が深いことで、二階部が奥まった位置にある印象を受ける。
 玄関の敷石もこだわりが感じられ、そこから一直線に廊下が走り両側に幾つかの部屋が連なるのも特徴で、旅館のような間取りになっている。手前左側の座敷は立派な床の間が見られ、床柱は通りを挟み向かいにあった郵便局が移築する際、前庭にあった棕櫚(シュロ)の木だという。
 二階部は物置のような様子で古びた家具などが置かれていたが、とても頑丈な梁組に驚く。それほど大きな構えの御宅ではないが、昔の家は良質な木材をふんだんに用いている例が多い。


 


 保手濱家の正面 玄関部分の敷石
 



 
 シュロの木を用いた床柱 書院付きではないが床の間の意匠は省略されていない  廊下を挟んだ反対側の座敷
 



 
 二階天井部に見事な梁組が見られる 格式ある家具が保管されていた
 

 ■大藤家住宅(1929)
 〖登録有形文化財〗
 木原家に向う坂道途中にある旧家。主屋は立派な入母屋屋根を持ち、昭和に入って建てられた家屋らしく二階の立ち上がりも高い。
 醸造業を代々続けられ、現在の福山市松永地区に多くの得意先があったという。昭和50年代頃に無住になったが、現在一部を修理中。
 裏手には江戸期の土蔵がそのまま残り、地下構造の米の炊き口が残るなど、醸造家時代の様子が良く残る。
 主屋横の路地も大変風情がある。路地に面するガラス窓もレトロ感が溢れる絵柄だ。



 
 
 大藤家の正面風景  建物内は一部改装工事中だったが着工前の箇所は見ることが出来た




 江戸期のものといわれる土蔵 地下掘り込み式の米の炊き口 
 



 
主屋の南に接する風情ある路地 建築当時からのガラス戸も趣がある 


■伊原家住宅(1917)
 〖登録有形文化財〗
 伊原家は複数の建物があり、通りを挟んで向き合っている。北側は通称「本伊原」と呼ばれ代々鋳物師をされていた旧家。通りの南側には「岡伊原」と呼ばれた八郎家住宅があり、こちらの内部を見学した。
 通りから見上げると特徴的な並び屋根が目につく。これは奈良県橿原市の今井町重要伝統的建造物群保存地区内にある重文今西家住宅を参考にしたともいわれ、この旧家の施主であった伊原正三氏が大工を連れて関西の名建築を見て回り建築を行ったとされ、完成までに二年を費やしたとのこと。
 玄関を入ると二間続きの大変豪勢な座敷が目に入り、欄間や床の間などの豪華な意匠、その細部に亘るまで大変見所が多かった。また、二階に上がる階段も円形加工された踏板、擬宝珠の様な意匠など大変手の込んだものであった。
 さらに驚くのが中庭とそれに沿った渡り廊下で、太鼓橋をわたると、洗面所と浴室につながる扉がある。その扉も遊び心といったものが感じられ、半地下構造の浴室は床の敷石、壁のタイルが美しく、明り取りの小窓も楕円形でこだわりが感じられる。
 最も裏手は一段高くなっており、茶室が設けられていた。
 

 

 「岡伊原」(伊原八郎家) 二階の並び屋根・門構えなどに特に個性が感じられる   門に見られる蜘蛛の巣の意匠 
 

 

 玄関からは二間続きの座敷が見渡される   玄関から見上げると凝った天井の造りが見られる 
 

 

 中庭側から座敷を見る 床の間の「地袋」は円形に加工され大変手の込んだ造りだ 
 

 

 こちらも手が込んでいる欄間 外からは想像できない立派な中庭  
 



 
 中庭を囲う渡り廊下 小さな太鼓橋もある 

 
 

 

 渡り廊下の途中に洗面所と浴室の入口がある 半地下の浴室も独特の空間だ 扉の窓の形に遊び心が感じられる 
 



 
 二階への階段 こちらも円形加工された板が使われている 
 


二階から見る「本伊原」の主屋


 
■探訪の様子
 この催しを知ったのは、ローカル番組で偶然予定を知り、ネットで確認し即座に申し込んだもので、定員15名とあり当日はのんびりと町家巡りの雰囲気が想像されたが、会場を訪ねて驚くことに50名近くの参加者があり探訪も二班に分れてとなった。探訪の後には、現地で町家の解説も担当された渡邉氏の講演があり、古い建物の再生に携われている生の声を聞くことができた。その間に頂いた「白市紅茶」は、化学肥料などは使用せず手作業での栽培、製造と大変手間をかけて造られているそうだ。
 今回が保存会発足初の催しということだが、今後も旧家・町並の魅力を発信され、活動が町家群の保存活用につながることを願いたい。





   
 



 

 
■町並風景 


 


 
木原家に向う坂道の町並
 



 
 町並の中心は台地上に展開している 西側の台地下は後発的に町場となった地区
 

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